Kirsikka*  ここは「水城りん」が自分の好きな作品への愛をダダ漏らせている個人サイトです。
 各作品の関係者各位とは全く関係ありません。

Novel
ブレイブストーリー > わくわく幻界フェスティバル

「久しぶりじゃの」
「!?」
 下校途中、突然声をかけてきた老人に、美鶴は心臓が止まりそうになった。
「ど、ど、ど、導師?!」
「これ、様をつけんか様を」
 やれやれ変わっとらんの、といった口調で、ラウ導師は目を細めた。
 幻界での姿そのままで目の前に立っているというのに、現世との違和感というものをこの老人はまったく意に介していないように見える。
 すれ違っていく人たちがじろじろ見ていることに気付き、美鶴は導師を側の公園の裏手にある、小さな雑木林の中に引っ張っていった。今更何の用かは知らないが、通報されて面倒なことになる前に済ませてしまおうと思ったのだ。

「実はのミツル、女神様の恩寵で、お主とワタルの二人を幻界に招待しようということになったのじゃ」
「はあ?」
 雑木林に着くなりの言葉に、冷めた目で、美鶴は導師を見上げた。
 まさかまた宝玉集めをやれというのではないだろうな。願いが叶うとかならまだしも、それは10年に一度しかないと決まっていることだからあり得ない。俺たちは女神を楽しませるためのおもちゃじゃないぞ。
「この度お主らには色々と学ばせてもらったというか、幻界を救ってくれた礼がしたいということなのじゃ」
「礼も何も、俺は何にも」
「いやいや、何も言うでないぞミツル。もう既に決まっていることなのじゃ。決定済みの事柄に今更とやかく言っても始まらん。細かいことはなしじゃ。それに、実はワタルは既に昨日から行っておる」
「は!?」
 そう言えば、今日の休み時間に辞書を借りに行ったら、三谷は昨日から休みだと小村の馬鹿が言っていたような。
「あ奴は実際に願いによって幻界を救ったということで、1日分余計にサービスがついたのじゃ」
 どんなサービスだそりゃ、とツッコみたい気持ちをぐっと堪え、ミツルは息をつく。
「で? 俺たちを招待して一体何をさせようっていうんだ?」
「何もせんよ。とにかく、お主ら二人に幻界を楽しんでもらおうという試みなのじゃ」
「……幻界を楽しむ?」
「幻界中の者達が既にお祭り騒ぎになっておっての。お主らはその主賓というわけじゃ。アトラクションも多種多様、現世のネズミーランドなんぞ比べものにならんほどの超大規模なものじゃぞ」
「……………」
 何を考えてやがる幻界の奴らは!!
 美鶴は心の中で激しく叫んだ。
(幻界の復興とか、組織体制作りとか、他にも色々やることがあるだろうが!!)
 しかし亘が先に行っているというところが心に引っかかった。
 するとそれを見透かすかのように、導師は美鶴の耳元に囁く。
「幻界屈指の特大遊園地でワタルとデート、じゃぞミツル」
 ぴく、とわずかに美鶴の柳眉が動いた。
「今から行って、明日の昼頃こちらに戻ればよい。……ワタルとむふふな一泊旅行じゃと思えばどうじゃ、魅力て」
行く
 まだ導師の言葉も終わらぬうちに、自分の欲望には激しく忠実な美鶴は、そう力強くうなずいた。



「うわああああああい!!」
 ミツルが幻界について聞いた第一声が、他でもないワタルの歓声だった。
 「君も風になれ!」だの「赤い翼のスピードを堪能せよ!」だのという文字が書かれた看板や張り紙がそこら中に踊り、「カルラスクエア」というどでかい看板が後ろに見える。
 カルラ族の下げ持つかごに乗り、上昇したり急降下したり超スピードで低空飛行したりするアトラクションなんだそうな。要するに幻界版ジェットコースターのようなものか。
 ……怖さと高さとスピードがハンパじゃないが。
 実際、そこは現世のネズミーランドも真っ青なほどの混雑ぶりで、行き交う人々はみな手に手に風船だのポップコーンだのジュースだのを持っている。
 導師が言った「既に幻界はお祭り騒ぎ」というのは、間違いなさそうである。

「ひゃっほー!」
 再び、急降下してきたワタルの歓声が聞こえた。
「大丈夫なのかアレ」
 思わずこぼすと、導師が豪快に笑って、
「落下したら運がなかったということじゃな。自己責任自己責任」
 そんな無茶な!と叫びたかったが、実際にアトラクションに参加している誰もが楽しそうだったし、当のワタルはこちらに気付かないほど夢中で、何とかなるもんなのか、と納得しかけてしまう。
 その時、「うぎゃー」という悲鳴と共に、アンカ族の若者がかごから投げ出され、落下した。
 ほら見ろ、言わんこっちゃない、とミツルが声を上げる前に、カルラ族が凄まじいスピードで急降下してきて彼をひっ掴んだ。周りで見上げていた者達が、「おおーっ」という歓声と拍手を送る。
 かなり命がけなアトラクションだが、人々はそれなりにすごく楽しんでいるようなので、それはそれで成立しているらしい。

「あー、楽しかった!!」
 終えて戻ってきたらしいワタルが、心底満足しきったような笑顔で降り立ち、ふとこちらに気付いた。
「芦川!じゃなくて、ミツル!!」
 思わず言い直すワタルに苦笑しかけるが、それより前にダッシュで抱きついてきた当人に思い切り押し倒される。
 どうやらかなりハイテンションなご様子である。
「いつこっちに来たの!?」
「い、今ついたばかりだ」
「あ、あのねあのね!これスゴイよほんとにスゴイよ!!めちゃめちゃ気持ちいいんだよ!!現世のやつなんか子供だましって感じだよ!!ミツルも乗ってみなよ!乗らなきゃ損だよ!!」
「あ、ああ……気が向いたら……」
「それからあっちのハイランダースクエアでは闘技場があってね!すっごい賞品とか出るんだよ!あと水人スクエアではダルババレースやっててね、キ・キーマがレースに出てるんだ!あとで応援に行こうよ!!」
「あ、ああ」
「そんでもってスペクタクルスクエアではスペクタクルマシン団が特別公演やっててさ!!昼と夜で出し物も変わるってミーナが言ってたんだ!一緒に見に行こう!!それからドラゴンスクエアじゃアトラクション2つもやってんだよ!ゴンドラに乗って場内回るやつと、火の輪くぐり体験するやつ!あと地底湖探検ツアーとか、シュテンゲルスクエアではやぶさめレースやってるし、ティアズスクエアではいろんなものを売ってるバザーがあるんだ!さっき行ってみたんだけどスッゴク美味しい飲み物売っててさ!あとで案内してあげるね!そんでね、それからね」
「これこれ」
 ミツルの腹の上に乗っかかったままで一気にまくし立てるワタルに苦笑して、ようやく導師が間に入った。
「そんなに慌てんでも、ミツルも祭りも逃げんぞワタル」
「とりあえずどいてくれ」
 何とかワタルをどかして立ち上がり、背中についた砂を払う。
「楽しんでもらえとるようじゃの、ワタル」
「はい、すっごく!!」
 目をキラキラさせて、ワタルがうなずく。導師は満足そうにうなずき、
「うむ、ではワシはこれで戻らせてもらうからの」
「はい!」
「あ、そうじゃお主ら、よかったらあとでワシのおるおためしスクエアにも立ち寄るといいぞ。おためし鳥をボールにしたピヨピヨ野球大会と、おためし鳥をすくい上げるピヨピヨクレーンゲームをやっとるからの」
 クレーンゲームならまだしも、アレを使って野球!?
 思わず口をあんぐり開けたミツルの横で、ワタルは無邪気に「わあ!」と歓声を上げ、
「ぜひ行きます!クレーンで取ったおためし鳥って、持って帰れるの!?」
「取れたらの」
「やったー!絶対取って、持って帰るんだ!!」
 きゃっきゃっとはしゃぐワタルを後目に、導師は「ではの」と一言告げて去っていった。
「とんでもない祭りに巻き込まれたもんだな」
 呆れて思わず呟くと、そんなミツルの手をいきなりワタルがぎゅっと握り、
「よし!それじゃ、どこから回ろうか!」
 何の心の準備もなくいきなり手を握られ最高の笑顔を向けられて、思わずドキドキと心臓を高鳴らせたミツルが言えたのは、たった一言だけだった。
「……まかせる」
「じゃあ最初はダルババレースから行ってみよ!!」
 そうして、半ばワタルに引きずり回されるようにして、ミツルは幻界祭り会場に繰り出したのだった。

[ 戻る ]     [ 続き ]

Copyright since 2005 Some Rights Reserved. All trademarks and some copyrights on this page are owned by Mizuki Rin.