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Novel
DRAGON QUEST V + 天空物語 > 絆〜かたちの違う鍵〜

 広間では、飲み比べのあげくに酔いつぶれてぶっ倒れた兵士長とオーゼルグが、ソファに長々と横たわってイビキをかいていた。
 散らかし放題の空き瓶を回収しているのは、困った顔をしたサンチョ。
「何だかんだ言って、本当に、船上でどんな生活をなさっていたのか」
 ブツブツ言いながら空き瓶を拾い上げる。メイドたちや兵士たちの談笑するのに混じって、サンチョは一人、片づけに回っていた。
「サンチョ!」
 テンが声をかけると、サンチョは途端にその表情を和らげる。
「どうしました?お二人とも」
「あのね、ドリスの隠した宝箱、どこにあるか知らない?」
「宝箱?」
「うん、とっておきのプレゼントがあるんだって」
 あどけない顔で尋ねてくる二人に、サンチョはしばし「はて」と考え、それから何か思い当たったらしく、ニッコリと微笑んだ。
「それなら、玉座の間に行ってみてはいかがです?」
「玉座の間?」
「はい。何か見つかるかもしれませんよ」
 二人は顔を見合わせて、
「うん、行ってみるよ!」
「ありがとうサンチョ!」
 手をつないで、走っていった。
 サンチョは二人の小さな背中を見つめながら微笑み、小さく呟いた。
「ドリス様も、お優しい方ですな」


「ぎょくざーぎょくざー。しらべるしらべるー」
 歌うようにいいながら、テンは大きな玉座の周りを回り始めた。
 赤いビロードの生地と金細工の施されている豪華な玉座。
「ねえテン、玉座の間、って言われただけで、玉座をしらべろとは言われてないわよ?」
「えー、じゃあどこしらべるの?」
 聞き返されて、ソラは「うーん」と辺りを見回す。
「何か、鍵がヒントになりそうなものって、ないかしら」
「かぎ、かぎーかぎー」
 歌いながら、テンも辺りを見回す。玉座の上にボフンと飛び乗ったかと思うと、後ろのカーテン状の垂れ幕に隠れてみたり、石像の周りをクルクル回ったり。
「もう、テン! マジメに探してよ!」
「てへへっ!」
 いたずらっぽく笑って、垂れ幕をめくった時、テンの目に飛び込んできたものがあった。
 それは、父と母の肖像画。思わず、宝箱のことを忘れてそれに見入ってしまう。
「テン?」
 ソラが近寄ってきて、同じように肖像画を見上げる。二人は並んで、父を、母を見つめた。
 額の中から微笑む父母の姿に、二人は切なさと共に、微笑みがこみ上げる。
「絶対、見つけようね、ソラ」
「うん」
 キュッと手を握りあって視線を下げたとき、ソラの目に、額の下に挟んである紙切れが映った。思わず取り上げて、開いてみる。

 『テンとソラへ
     見つけたね! さすがはあんたたち! よくできました!
     目的の宝箱は、この下のヒントの場所に置いてあるよ。健闘を祈る!!
                                        ドリス  』

「ヒントって? ソラ、早く読んで!!」
「ちょっと待ってね、ええっと」

 『ヒント:: あんたたちの大好きな場所だよ』

「ぼくたちの、大好きな場所?」
 ぱちくり、と青い瞳を瞬きさせて、テンはキョトンとなる。
「お台所かな?宝物庫前の広場?」
「そこはさっき探したじゃない」
「行ってないところって言ったら……」
 うーんと考えて、二人は「あっ」と顔を見合わせた。
「ぼくたちのお部屋!」
「まだ探してないわ!」
 言い終わるが早いか、二人は部屋に向かってダッシュし始める。
 それを陰からコッソリ見つめている姿があった。宝探しゲームの発起人、ドリスである。彼女はウフフッと微笑むと、
「さて、これで準備はオッケー、っと。みんな!そっちの準備はオッケー!?」
 通路から、外に向かって怒鳴る。
 すると数人の兵士たちが、それぞれに笑顔で手を挙げた。準備万端、という顔だ。
 ドリスは満足そうにうなずき、
「あとは、暗くなるのを待つだけ、ね」
 だいぶ日も傾きかけた空を見上げて、微笑んだ。
「最高の夜にしてあげるんだから」


「あった!!!」
 テンが、ベッドの下を覗き込んで歓声を上げた。
「ほら、ソラ、あったよ!!」
 腕を目一杯伸ばして掴むと、小さな宝箱を引っ張り出した。
 それはテンの両手に収まってしまうような、小さな宝箱。少々古ぼけているが、鍵穴が二つ付いているところを見ても、これがドリスの贈り物であることに間違いないだろう。
「早く開けてみましょう!」
 ソラも待ちきれない、といった風で、ポケットから鍵を取り出した。
 まずテンが鍵を差し込み、ガチャッと鳴らす。続いてソラが、もう一方に差し込んだ。
「開けるよ?」
「うん」
「せー、の!!」
 ピンッと小さな音を立てて、宝箱が開いた。
 途端に流れ出した、かわいい音色。
「え……?」
「これ……」
「オルゴール……?」
 やさしく、あたたかく、そっと心の奥まった部分を撫でられるような、そんな感覚。
 不思議と懐かしく、切ない気持ちが胸の奥からこみ上げてくる。
 けれどそれが一体なぜなのか、それを確認する前に消えてしまうような、儚さに満ちた気持ち。
「わたし……」
 ソラが、ぽつりと呟いた。
「わたし、この曲、知ってる気がする……」
「ソラも?」
 テンが顔を上げてソラを見る。
「ぼくも。ぼくも、知ってるような気がするんだ」
「どうしてかしら。知ってるの。ううん、覚えてるの」
「うん、ぼくも。覚えてるんだ」

「やっぱり、覚えてるんだね」
 部屋の入り口付近で声がして、振り返るとドリスが立っていた。
 とてもやさしい、あたたかい微笑みが浮かんでいる。
「ドリス!」
「これ、これって……!」
 言いかけるテンとソラに微笑みを返して、
「うん、そう。そうだよ」
 ゆっくりと歩み寄り、二人の前に視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「ビアンカのオルゴールだよ。あんたたちが赤ちゃんだったとき、寝かしつけるときに、ビアンカが子守歌代わりに聞かせてた曲」
 二人は完全に言葉を失っていた。
 お母さんのオルゴール。
 それだけで胸がいっぱいだった。
「どうして鍵が2つあるか、分かる?」
 言われても、二人はただドリスを見つめ返すだけで、答えることが出来ない。
「1つはビアンカの、もう1つは坊ちゃんの。二人が、一緒に生きていこうって、ずっと一緒に、って、作ったものだからなんだよ」
 やさしく髪を撫でられて、ソラの顔がくしゃっと涙にゆるんだ。
「カタチの違う鍵。それはね、この世にたった一人しかいないその人と、二人で一緒に1つのものを。そういう意味なんだよ。分かるかな。あたし、説明って苦手だし、上手く言えないけど」
 照れ笑いするドリスに、双子たちは何も言わずに抱きついた。グスッと鼻をすすり上げて。
「ありがとう、ドリス」
 たまらない愛しさに、ドリスは二人をギュッと抱きしめる。
 やわらかく、あたたかく、小さな二人。
 あんたたちも、カタチの違う鍵なんだよね。
 ドリスは二人を抱きしめて、心の中で囁いた。
 よく似てても、違う。それぞれに、この世にたった一人しか存在しないんだ。
 一人では開かない宝箱でも、二人で力を合わせれば、開くんだよ。
 一人では歩けない道でも、二人で行けば、きっと歩けるんだ。
 あんたたちのお父さんとお母さんみたいに、ね。

「さ、そろそろいい頃かな。誕生日の贈り物はこれだけじゃないんだよ」
「え?」
「まだ何かあるの?」
 幾分涙で赤くなった鼻をこすりながら、二人が顔を上げた。ドリスはいたずらっぽく笑んで、
「日も暮れたし、これからとっときの贈り物が見られるよ」
 きょとん、となる双子の手を引いて、ドリスは廊下に出て、空の見える吹き抜けになった通路にやって来た。既にそこには、オジロンやサンチョ、そしてメイドたちやたくさんの兵士が今か今かと待ちわびていた。ドリスとテンソラの姿を見たオジロンが、
「おお、来たか」
「おじ様、一体何なの?」
「見てのお楽しみだ」
 やさしく笑って言うオジロンに、サンチョが合図の旗を振った。
「始まるよ」
 ドリスの声が飛んだ。
 ソラが聞き返そうとした、その時。


     ひゅるるるる  ドーーーン!!!


 漆黒の夜空に、光の花が咲いた。おおーっ、という歓声が起こる。


     ドーン!! ぱらぱらぱら


 赤、青、黄色、オレンジ、緑、紫……。様々な色の光が、大輪の花を咲かせては消えていく。
 キラキラと輝く光の花に、テンもソラも目を輝かせた。
「すごい……!!」
「きれい……!!」
 うっとりと見上げて、ソラはずっと胸に抱いていたオルゴールをギュッと抱きしめた。
「気に入った?」
 聞かれて、二人はほぼ同時に大きくうなずく。
「どこで打ち上げてるの?」
 テンの質問に、サンチョが側の森の中を指さし、
「あの辺りで、兵たちがね」
「ホントだ!」
「あそこでは、花火が真上になるでしょうねえ」
 それを聞いたテン、ぱあっと顔を明るくして、
「ソラ、行こう!!」
「え、ちょっ、テン!?」
 ソラを抱え上げると、テンは通路脇に伸びる木の枝に飛び乗り、ひょいひょいと枝を渡っていく。
「あ、危ない!!」
 悲鳴を上げるオジロンに、「だいじょーぶ!」と笑い返すと、
「ほら、ソラ、見てごらんよ!」
 ソラが上を向く。
 より近い場所で、光の花が大きく開いた。
 二人の真上。大きな光が、花開いては消えていく。
 通路で見ていたのとは、迫力が全然違う。
「すごい……」
「だろ?」
 ソラをちゃんと安定させてやると、テンは更に高い場所へと、木を登り始める。てっぺん近くまで来て、テンは一人、頭の上で煌めく夜空のショーに見とれた。
「ねえソラ」
「ん?」
「お父さんとお母さんから、これって見えてるのかな?」
「……うん。きっと」
「そうだよね。きっと、見えてるよね」
「うん」
「ソラ」
「ん?」
「次は……、お父さんとお母さんと、みんなで一緒に見たいね」
「うん、そうね」
 ソラは花火を見上げながら、ビアンカのオルゴールを抱きしめた。


 皆からは少し離れた場所で、ドリスは花火を見ていた。
 柔らかな表情の、そのどこかに、苦しいような切ないような、そんな色が浮かんでいる。
「……これだけを1日で用意するとは、見事なものだな」
 ふいに後ろから声をかけられて、振り返る。カデシュが立っていた。
「……何か用なの?」
 どこか、拗ねたような口調。カデシュはため息をついた。
「お前らしくもない。何をそんなに怒っている?」
「……別に、怒ってなんかない」
「嘘をつけ」
「…………」
 唇を尖らせて、ドリスは視線を泳がせた。カデシュが隣にやってくる。少しの距離を置いて、柵に手を置く。
「カタチの違う鍵……」
「うん?」
 ぽつりと呟かれた言葉に、カデシュは視線をドリスに向けた。彼女は花火を見上げたまま、どこか遠い目をしている。
「あんたに、その意味が分かる?」
 意地悪く言っているのではない、と分かり、カデシュも花火に視線を戻した。
「……附合しない事物同士の相対的関係とその意味、ではないのか?」
「は??」
「…………」
 ふう、と小さなため息をつく。
「だた一人の人ってことよ。どんなに似通ってても、この世に同じ人間は二人といないんだってこと」
「私の言った言葉をかみ砕いて言えば、そうなるだろうな」
「?」
「要するに、存在する事物に対する存在理念、相対的な存在理由、といったところか」
 眉間にしわを寄せ、「何言ってんだコイツ」という顔をして頭の上にクエスチョンマークを三つも四つも浮かべて見つめてくるドリスに、カデシュはふっと小さな笑みをもらした。
「世の中に事物は1つしかあり得ないということだな」
「イミ分かんない」
 ケッと言うように呟いて。
「その人が自分にとって、ただ一人の人であるかどうか。つまりはそういうことよ」
 夜空に、大輪の光の花がまた1つ咲いた。
「あれは、この国の王妃のものか」
「うん」
 うなずいて、ドリスは小さな微笑みを浮かべる。
「ビアンカはね、素敵な人だよ。あんたも会えば、びっくりすると思う。強いんだ、すっごく」
「お前以上にか?」
「……どういうイミよ、それ」
 ジロッと睨んだ後で、
「人として、ううん、女として、強いの」
「……?」
「もちろん、弱いとこもあるよ。いっぱい笑うし、いっぱい泣くし、いっぱい怒るよ。でも、強いんだ。きれいで。かなわないなあって、思っちゃう」
 カデシュは、いつのまにかドリスの頬に、柔らかな微笑みが浮かんでいるのに気付いた。
「それはね、坊ちゃんがいるからなんだよ」
「……国王か」
「そ。ビアンカは、坊ちゃんがいるから強いんだ。坊ちゃんがいるから強くなれるし、弱さも強さに変えられるんだよ。……愛だよ、愛」
「……くだらん」
 カデシュがうつむいて、呟いた。
「愛などと言う感情だけで人が強くなれるなら、私は……」
「はあ? 何言ってんの?」
 目をパチパチさせながら、ドリスは呆れた声を出した。
「あんただってそうじゃん。天空の勇者を求める、強い気持ちがあったから、今まで旅してきたんでしょ?それだって愛の1つじゃないの? 何かを強く求める気持ちって、愛の一種じゃない?」
「短絡的だな」
「だって、愛って言ったって色々あるじゃん。ビアンカと坊ちゃんのが愛なら、あたしとテンソラのも愛だし、ゲレゲレたちだって愛だし。メイドたちや、兵士たちや、オーゼルグも、今まで旅した土地で出会ったたくさんの人たちも。……あんたとあたしだって」
 ふと、カデシュが顔を上げる。
「ここにこうしているのは、愛の一種なんじゃないの?」
「…………」
 花火が上がる。
 光に照らされた互いの横顔。
 瞳の中に踊る、光の花。
「何よ……」
 じっと見つめられて、気まずくてドリスは顔を赤く染めた。
 ふいに、カデシュがふっと柔らかな微笑みを浮かべたような気がした。
「……そうだな」
 カデシュにつられるように、ドリスは夜空を見上げる。
 微かな呟きは、花火の音に消されて消えた。
「え? 何て?」
 ドリスが聞き返す。カデシュは答えない。
「ちょっと、今何て言ったの?」
「……くだらんことだ」
「気になるじゃないのよ!何て言ったのよ!」
「二度は言わん」
「何それー!!」
 きいっ!と目をつり上げるドリス。そんな彼女を見て、「ふん」と笑うと、
「やはりお前はそういう方がいい」
「はあ!? 殴られたいかああ!!?」

「ちょっとーーー!!いい加減誰か助けに来なさいよーーーー!!!!」
 城の尖塔のてっぺんで、カデシュ様に飛ばされたミニモンちゃんがその後助けられたのは、「花火に照らされた未確認物体が尖塔に引っかかっています!」という兵士からの報告があってからのことだった。


初めて書いた天空小説でした。なので好きなキャラは全部出そうとか無謀なことをした結果がコレです。
原作漫画に近い雰囲気出せたらいいなあと試行錯誤した思い出が。出せてないけど!!(苦笑)

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