DRAGON QUEST V + 天空物語 > やさしさの向こう側 |
ドリスの様子がおかしい。
そのことに気付いたのは、一行の最後尾を歩いていたカデシュだった。
一番先頭を元気いっぱいに歩いていくのは、いつも決まってテンとソラだった。
歌うように楽しげに、踊るように軽やかに、2つの小さな頭がぴょんぴょん飛び跳ねているのが常であり、この二人は本当に旅を楽しんでいた。
旅人街道とは名ばかりの、岩山の山道のように険しい悪路であろうとも、二人は手を取り合い、笑いさざめきながら一行の先頭を歩いていくのだ。
もっとも仲間モンスターたちが一緒の場合、二人にまざりあって、子供とモンスターという明らかに異様な組み合わせが先陣を切ることになるのだが。
そして大抵その後ろに続くのが、大きな荷物を背負ったサンチョ。
急勾配の山越えや木々の密集している森などを通過する場合、馬車を使用するにも限度があるため、そうなったときは否が応でも徒歩を強制される。
たとえそんな時でも、サンチョという召使いは、自炊を怠ろうとはしない。
それがプライドであるかのように、彼の背には戦闘とはまったく関係のない雑用品が山のように背負われているのだ。
調理用のフライパンを始め、人数分のナイフやフォーク、食器が数回分、保存の利く食材や医療品に至るまで、彼の背負う巨大なリュック1つに収められている。ソラはそれを見ていつも、サンチョのリュックは異次元に繋がっている、とまことしやかに言いふらしていた。
だから彼が歩くと、必ずリュック内の荷物がぶつかり合って、金属的な音を立てていた。
サンチョの隣を、前を行くテンソラを見守りながらドリスが歩く。
大抵はサンチョと他愛ないおしゃべりをし、子どもたちが危ない道に入らないように注意を払いながら進んでいくのだが。
どうも、彼女の様子がヘンだ。
今朝から、いや特に先程から、サンチョの話も上の空になってきている気がする。
足がふらついているように見えるのは、気のせいだろうか。
一行の様子を冷静に見つめてきたカデシュは、最後尾を歩きながらそんなことを考えていた。
「ドリス様、お疲れですか?」
言われて、ドリスは明るく笑い飛ばした。
「まさかぁ。後ろのバカ男ですらへばってないってのに、このあたしが疲れるわけないじゃん」
バカ男と言われて、ちょっとムッとした顔をしながら、カデシュは無言でドリスを睨んだ。
軽口を叩けるくらいなら、問題ないようだ。その時はそう判断した。
だがそれからしばらくも歩かないうちに、ふいにドリスがガクンと膝を折った。
「ドリス様!?」
ビックリしたサンチョが叫び、前を歩いていたテンたちが、驚いたように駆け戻ってくる。
「いかがなさいました!?」
慌てて覗き込むサンチョに、ドリスは荒い呼吸と共にかすれるような声を出した。
「だ、だいじょぶ。ちょっと、……めまいがしただけだから」
ふと彼女の額に手をやったサンチョが、ハッとした顔をした。
「これはいけない……。すごい熱ではないですか」
「へ、平気よ、このくらい……」
立って歩けるから、と身体を起こしかけて、またフラッとふらつき、後ろに倒れかけてしまう。
サンチョたちが「あっ」と声を上げかける前に、ため息交じりにカデシュに受け止められた。
「何が平気だ。こんなふらついた身体で、更に悪化させたいのか」
「放しなさいよ」
不本意にも肩を抱かれた形になっていて、ドリスは熱っぽい目でカデシュを睨み、彼の手を振り払った。微かにうなりながら荒い呼吸をし、何とか立っていようとつとめているようだ。
「次の街まで、あと少しだというのに」
サンチョが心配そうにドリスを見やる。
「ドリス大丈夫?」
「おねつ高いの?」
愛らしい顔を心配に曇らせて、双子たちが覗き込んでくる。ドリスは彼らに力なく笑って応え、
「平気平気。こんな熱なんか、気合いで吹っ飛ばすから」
そう言うものの、誰の目から見ても辛そうなのは明白だった。
無理やり歩かせて良いものかどうか。
だが、いつ魔物の群が現れてもおかしくない、こんな人気のない場所に、いつまでもいるわけにはいかないし、日もすっかり傾いてしまっている。
ここでゆっくりしていては、日が暮れるまでに次の街までたどり着けない。
どうしたものかと困惑するサンチョを後目に、ドリスはついに座り込んでしまう。
慌てるテンたちに、彼女はそれでも「大丈夫」を繰り返す。
様子を見ていたカデシュが、ついに口を割った。
「お前たちは先に街へ行き、宿に部屋を取っておけ」
「は?」
言われて、サンチョはぽかんとする。
「氷嚢とベッドの用意をさせておけ。この女は私が連れて行く」
「え……あの……」
突然のリーダーシップに、サンチョはただただ唖然とするだけだ。
普段大体のことはドリスが突発的にも提案し、それにサンチョの判断を加えて行動する一行だ。これまでこの寡黙な男が、皮肉以外で口を挟んだことはない。ましてや、リーダーシップを発揮するようなことは、万に一つもないと思っていたのだ。
むしろリーダーシップとも言うべきムードメーカーはドリスの方なので、調子が狂うったらない。
そんなサンチョを無視して、彼はドリスの元にしゃがみ込むと、彼女の状態を把握するため、まるで医者のような手つきで容態を見始めた。
高熱のせいで、ドリスはすでに意識が朦朧としてきているようだ。何をされても抵抗すら満足にできないでいる。そして、身体が小刻みに震えている。体温調節ができていない証拠だ。
「何をしている。聞こえなかったのか」
睨むように自分を見上げたカデシュに、誰よりも先にテンが駆け出した。
「お部屋とっておけばいいんだよね!」
続いて、ソラが走り出す。
「わたし、宿の人に氷を用意してもらうように言ってくるわ!」
「あ、お、お二人とも!」
大事な人が一大事に陥ったとなっては、とてもじっとしていられない気性を両親から受け継いでいるテンとソラだけに、止めることは不可能だと分かっていた。
「子供だけで行かせるのは危険だろう。さっさとあんたも行け」
「あ、は、はあ」
まだ戸惑いながらも、サンチョは大荷物をガチャガチャ言わせて、テンソラのあとを追った。
「まったく」
彼らの後ろ姿を見て、カデシュは人知れず呟いた。
「危機回避判断力に欠ける人間ばかりなのか」
テンにもソラにも、その能力が十分備わっていることは承知しているが、それは戦闘や身に危険があるときだ。さすがの彼らでも、突発的な病に対する正確な判断は難しい。
その点、他の人間よりも薬や病の知識を備えているのは、実はサンチョではなくこのカデシュだった。身をもって体験していることだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
彼はまずマントを脱ぎ、寒気に震えているドリスをそれで包んだ。すでに彼女は、口をきく元気さえなくしているようだ。荒い呼吸で躍動する胸元にうっすら浮かんだ汗を、カデシュの手が不器用に拭っても、ぐったりした様子で何も言わなかった。
まずいな。カデシュは思う。せめて解熱剤だけでも、サンチョから預かっていれば良かったものを。
だが後悔先に立たずだ。こうしていても始まらない。
カデシュはドリスを抱き上げ、自分の肩に首をもたれさせて、足早に歩き出した。
――と。
短く、舌打ちをする。横手から、魔物の群が飛び出してきたのだ。その数、4匹。
獰猛な目を光らせながら、無骨な手に持った槍をカデシュに突き付けるそれは、オークの種だった。
自分のレベルからすれば、何てことはない相手だ。だが、今は一刻を争う。一匹ずつを相手にしている暇はない。
抱きかかえていたドリスを素早く下ろすと同時に、彼の左手は火炎の光を帯び始めていた。
オークたちがカデシュよりも、ドリスに目をつけていることは明白だった。
固い男の肉より、柔らかく新鮮な若い女の肉を好むことくらい、子供でも知っている。
多少魔力を消費しても、ここは一撃突破するに限る。相手が攻撃をしかける隙さえ与えず、瞬殺する。それには少し傷に堪えるかもしれないが、強力な魔法を使わなくては。
オークたちが、槍を構えて攻撃に出た。
その瞬間を見透かしていたように、カデシュが魔法を放つ。
「ベギラマ!」
低く言うと同時に、激しい炎がオークたちに襲いかかった。オークたちは身体を灼熱に焼かれて、鋭い悲鳴を上げる。カデシュは魔法が敵を命中すると同時に、再びドリスを抱き上げ、その場から駆け出していた。
自分の魔力がどれほどのダメージを与えるのか、知らないカデシュではない。
並の魔法使いとは比べ物にならないほど、その威力が凄まじいことは、一人旅の間に百戦錬磨と言ってもいいほど魔物との戦闘をこなしてきた彼なら、見なくても結果が分かる。
しばらく走って、カデシュはスピードを落とした。
正直に言えば、人一人を抱えて走るというのは思った以上に辛い、というところだ。
「無理すんじゃないわよ」
ため息のような感じで、ドリスが囁いた。
「辛いくせに」
はぁはぁと荒い息を吐き出しながら、虚ろにそう言うドリスに。
「そのセリフ、そっくり返す」
よいしょ、という感じで抱えなおして、彼は少し足早に歩き出した。
「しかし何ですな」
ようやくドリスを宿のベッドに落ち着かせ、部屋から出てきたカデシュに、サンチョは改めて意外そうな顔を向けた。
「カデシュさんは思ったよりも力があるんですな」
「……ケンカを売っているのか」
「あ、いえいえ、そうではなくて」
慌てて弁解するサンチョに、
「あの場を見渡して、他に誰があの女を抱えることができた。王子や王女では話にならないし、あれだけ大荷物を背負ったあんたにそれができたとも思えない」
「まあ、確かにそうですが、わたしが言いたいのはですな」
すると彼はふんと鼻で笑い、
「私がどのくらいの間、一人で旅をしてきたと思っている。世界を旅して回る男が、女一人抱える力も持たないと、本気でそう思っているのか」
言われて、サンチョはぽかんとした顔を彼に向けた。
それを怪訝そうに見返して、サンチョが今まで自分のことを、虚弱体質だというようにしか見ていなかったことを知った。
「失敬な奴だ。相手を容姿だけで捉えているとどういう結果になるのか、知らないわけではないだろう」
それだけ言うと、カデシュは自室へと消えていった。
彼をぽかんと見送ったサンチョは、やがてハッと我に返り、ドリスの寝ている部屋のドアをノックした。
そして、その深夜のこと。
部屋で一人、いつものように読書をしていたカデシュは、ふいにドアがノックされるのを聞いて、本から顔を上げた。
「誰だ」
「……あたし」
ドリスの声だ。
彼女は気まずそうな顔つきで入ってきた。おそらくサンチョに無理やり着せられたのだろう、淡い水色のだぶだぶのセーターを着ていた。サンチョのものらしく、ドリスではどう頑張ってもサイズが合っていない。
だがそれはそれで、普段動きやすいピッタリした服装を好むドリスだけに、何だか小さな女のコのようで、意外なほどにかわいらしかった。
「もういいのか」
「ん、熱下がったし、もう平気。医者に診てもらったら、旅のストレスだろうって言われた」
両手を後ろにやったまま、目をそらしてそう言うドリスに、カデシュは冷静に言った。
「それで、何をしに来た」
状況を見れば、とても的はずれな質問だった。
病み上がりのはずのドリスが、それを押してまでやってくる理由が、普通は気付いても良さそうなものだが、そういうことには壊滅的に鈍感な彼には分からなかった。
彼が考えたのは、もっと別のことだった。
この女は世話係の神経をまいらせる達人だったに違いない、と。
レディがみだりに殿方の寝室へ入ってはいけません、というのは、貴族の娘ならば誰でも必ず言って聞かせられることだ。理由は簡単、貴族のやんごとない身分の娘にマチガイが起こってはならないからだ。
ドリスとて王族の娘なのだから、特に口をすっぱくして言われていただろうに。
まあカデシュの「神経をまいらせる達人」という憶測は、実際微塵も間違ってはいなかったのだが。
ドリスはすたすた歩いてくると、カデシュの目の前に後ろに隠していた手を「ん」という感じで付きだした。彼女の手にあったのは、熱々のコーヒーと一口サイズの小さなチョコレートが3つ。
不思議そうな顔をするカデシュに、
「厨房で入れてもらってきたの。今日のお礼よ」
「はあ……」
「チョコは、あたしのとっておきなんだからね。テンソラにもあげてないんだから。ありがたく思いなさいよ」
「はあ……」
状況を掴めずに、カデシュは目をぱちくりさせた。
それでも素直にドリスからコーヒーとチョコレートを受け取ると、それを側のナイトテーブルに乗せた。そして、気付いた。
「厨房で入れてもらったと言っていたな」
「そうよ」
「普通、砂糖やミルクを添えるものではないのか?」
「あたしが断ったのよ。どうせあんた、ブラックで飲むし」
手際がいいのか何なのか、という顔をするカデシュを後目に、ドリスは唇をすぼませて、彼とちょっと間を空けて、彼の座るベッドに腰掛けた。
膝の間に両手を入れて、何やら黙り込んで、手を所在なげに組んだり解いたりしていた。
「………………」
彼女にチラと目をやって、カデシュは怪訝そうに目を瞬かせる。
まだ何か用があるのだろうかと、本気で気付かないようだった。鈍感も、実に壊滅的である。
「冷めないうちに飲んだら?」
横目で睨むようにして、ちょっとふてくされたような口調のドリスが言った。
「……ああ」
彼女がどうしてそんなにふてくされた態度を取るのか、彼には全く分からなかった。
だから、それが照れ隠しなんだということも、この男には皆目見当もついていないのだった。
「少し濃いな」
一口飲んだカデシュが、小さく呟く。
ドリスは唇を尖らせたまま、ちょっと視線を泳がせて大きく息をついた。
「…………あの」
ん?と言うように、彼はドリスの方を見た。
ドリスは宿のロゴが入った室内履きを履いた足を所在なげに、子供のようにブラブラさせて、肩をすくめるような格好でうつむいていた。
「何だ」
「うん、あの、ね」
「?」
首を傾げるカデシュ。言葉が上手く出てこないドリス。
「言いたいことがあるんだろう」
「まあ、そうなんだけど、さ」
「だったら早く言え」
どうしても、その一言が出てこなくて、ドリスは気まずく視線を泳がせる。ちょっと赤くなっていた。
これは長期戦になる、とでも思ったのか、カデシュは嫌味なくらい長い足を組んで、伏せたままだった本を膝の上に広げた。
5ページほど先に進んだ頃だろうか。
「あの……、ありがと」
ぽつんと呟くように、ドリスは言った。
「は?」
あやうく聞き逃しそうになって思わず聞き返し、カデシュは目をパチパチさせる。
「あたしのこと、運んでくれて」
「………………」
カデシュはちょっと呆れたような顔をして、ドリスの横顔を見つめた。
「……まさか、それを言いに来たというのではないだろうな」
「……なんでまさかなのよ」
「………………」
カデシュはゲッソリした気分だった。一体何を言われるのかと、密かに緊張し(期待し)ていた自分がバカらしくて仕方なかった。そんなひと言を伝えるのに、どうしてこれほど時間をかけるのか。全く理解不能だった。
時間の無駄だし、悩むエネルギーの無駄だし、与えられた無駄な緊張感を返せ、と言いたかった。
これを女心と言うのなら、悪いが自分には全くもって理解不能だと、本気で思った。
彼はとことん恋愛に向かない性格なのかもしれなかった。
その時、ふいに、ドリスが動いた。緊張感が落胆に変わった余り、近寄ってきたドリスにも対して気に留めなかったカデシュだったのだが。
唐突に抱きつかれて、彼の思考回路は完全にフリーズした。
「お、お、おい、こら、何を……」
何とか脳の片隅に残留していた部分で、そう言った。
するとドリスは、そんなカデシュの様子などまるで無視して、不思議そうな声を上げた。
「ん〜〜? 違う」
「ち、違う? 何が」
「こっちかな」
何やら独り言を言うと、彼女はカデシュの反対側の肩に頭を寄せ、頬をすり寄せ始めた。
その仕草は、まるで母ネコのあたたかいにこ毛にすり寄る子猫そのものだったのだが。
「こっ、こら」
それが人間の男女ともなると、状態は変わってくる。それは恋人に甘えてすり寄る仕草そのものなのだ。おまけに、ネコなら押しつけるのは鼻先だけで済むのだが、人間だとそうはいかない。仮にも抱きつかれた状態で更にそういうことをしてるのだから、ハッキリ言ってしまえば、ドリスの柔らかい身体が密着しているのだ。
要するに、彼女が頬をすり寄せるのに身をよじるたびに、人並み以上に豊かな胸だとか、襟ぐりの広がっただぶだぶのセーターだから余計に目立ってしまう、うなじから背中へ向かう白くなめらかな曲線だとか、そういった「誘惑」の事物がダイレクトにカデシュの身体に密着し、目の前を行き来するのである。
これは理性と体に悪かった。
それまで鋼鉄、いやはぐれメタル金属並の強度を誇っていた彼の理性なのだが、それ以上のものに攻撃されてはひとたまりもなかったようだ。
「は、離れろ」
カデシュは思わずうわずった声を上げてしまう。なのに当のドリスは、全く違った意図でそうしているらしい。何やらカデシュの首筋から肩先まで、入念に頬をすりすりとすり寄せて、「あれぇ?」などとうなっている。
カデシュはたまらずに、「ひえええ」とでも言いたそうな顔をして固まった。普段ポーカーフェイスを崩さない彼でも、こうまでされるとひとたまりもないらしい。
これ以上身体が反応する前に、頼むから離れてくれと、本気でお願いしたかった。
……表層的なお願いだと、本心で気付かないまま。
「い、一体何をしてるんだ」
幾分うわずった声でそう言うと。
「なんかチガウ」
「だ、だから、何が」
「あんた、あたしを抱き上げて運んだんでしょ?」
「あ、ああ」
「あの時、ずーっとこめかみ辺りに何かが当たってすっごく痛かったのよ。それが何なのかなって」
「……は?」
不思議そうに、無邪気に首を傾げるドリス。
カデシュは一介の若い男として、無邪気にそういう行為をされるととてつもなく体に悪いのだと、彼女に忠告しようかどうしようか考えあぐねた。
すると。
「あ!」
ナイトテーブルに目をやったドリスが、ふいに言った。
「あれか!」
何だ何だ、とばかりに目をやると、彼女の指さす先にあったのは、カデシュがいつも肌身離さず身につけている故国のペンダント。
「あれよ、あの革ひもの結び目! あれがずーっと当たってて痛かったんだ」
ああスッキリした、とでも言わんばかりに輝いた表情をするドリスを見て、カデシュの中の何かが切れた。
彼女の首根っこを掴んでドアを開けると、ぽいっと部屋から放り出した。
「何すんのよ!」
と怒鳴るドリスを後目に、カデシュはバタン!とドアを閉める。
閉めたドアにもたれかかって、彼は大きな大きなため息をついた。体中から力が抜けたような感じだった。
急病だからといって、助けなければ良かった。
ちょっと、いやかなり、後悔したカデシュであった。
しかしその一方で、体中に残るドリスの柔らかい身体の感触に、既に目覚めかけてしまったものをどう処理すればいいんだと、かなり深刻に、けれどちょっと嬉しそうに、しばし悩む彼なのだった。
「何だっつうのよ、あたし、なんか悪いコトした?」
自分のしたことをまるで分かっていないドリスは、ドアの前でさんざん悪態をつきながらも、首をひねっていた。
ニブイのはお互い様のようだった。
ただ1つ良かったのは、ドリスの持ってきた差し入れのチョコレートが、素晴らしく美味しかったことだった。 |
途中まで真面目に書いてたのにどうしてこんなことに(笑)
カデシュだってお年頃なんだからもうちょっとナニかあってもいいんじゃないの、という現れですはい。 [ 戻る ]
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