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Novel
DRAGON QUEST V + 天空物語 > どうしてそうなの?〜ナイショの午後〜

 オイラ、コドラン。ご主人さまの仲間になった、ドラゴンキッズ。
 今はそのご主人さまを捜して、ご主人さまの子どもの、テン王子とソラ王女のお供をしてるんだ。

 ……あのね、みんなには、ナイショだよ。
 魔法使いのカデシュ兄ちゃんが、こないだシューベリーの町で買ったお菓子。
 『赤ちゃんうさぎのマシュマロクリーム』っていう、とっても恥ずかしい名前が付いてて、カデシュ兄ちゃんはみんなにはナイショで買ったんだって。
 オイラが夕方、町の中を散歩してたら、いつもみたいに無表情で何考えてるのか分かんない雰囲気のまま、小さな包みをもってカデシュ兄ちゃんが歩いてるのを見つけたんだ。
 ゲレゲレほどじゃないけど、人間より鼻がいいからね。匂いで分かっちゃうんだよね。
 オイラが鼻をふんふん言わせて飛んでいくと、カデシュ兄ちゃんはバツの悪そうな顔をした。オイラ、人間の言葉はしゃべれないけど、人間が何を言ってるのかは分かるんだ。
 兄ちゃんはそれを知ってるから、肩に留まろうとするオイラを手で払いのけるみたいにして、
「これは……、頼まれたものだ」
 あ、ごまかしてるな、って、オイラには分かった。だって、あからさまに困ったって顔してるんだもん。
 オイラにも、1個食べさせてくれた。口止め料だったのかな。
 口の中に広がるあまーいマシュマロクリームがすっごく美味しくて、パタパタって兄ちゃんの周りをクルクル回った。ゴロゴロって喉を鳴らして、甘えるみたいに「キュー」って鳴いてみた。もう1個ちょうだいって、そういうつもりもあったんだけど。
 オイラは魔物だけど、一緒に旅をしてるみんなのこと、結構よく見てるつもりなんだ。
 もちろん、テン坊ちゃんとソラ嬢ちゃんのことも見てる。
 でもオイラが今一番見てるのは、兄ちゃんと、ドリス姉ちゃんのことさ。
 だから、なんで兄ちゃんがこんな似合いもしない『赤ちゃんうさぎの〜』なんて乙女チックなものを買ったのか、なんとなく想像ついちゃったんだよね。

 1番最初にそのお菓子を見つけたのは、ソラ嬢ちゃんだった。
 ピンクと白と赤と、クリーム色の、いかにも女のコが好きそうなかわいいお菓子屋さん。
「きゃーーーっ!!見て見て、テン!ドリスーー!可愛いーー!!」
 女のコって、弱いんだよね。ああいう「可愛い系」のモノ。
「おいしそうだけど、すっごい名前だね」
 テン坊ちゃんが、あははって笑いながらショーウィンドウを眺めた。
 うん、悪いけどオイラも坊ちゃんに同感。だって、すごいんだよ、ネーミングがさ。
 『こねこちゃんのミルクキャンディ』だよ?
 『ふくろうおじさんの夜更かしパイ』に、『小人さんの手作りチョコマフィン』、『双子こぎつねの木の実ケーキ』、『ベアおばさんのはりきりハニークッキー』だよ?
 何でもかんでも動物の名前つけりゃいいってもんじゃない。オイラ、ついてけないよ。
 でも、そこのお店はネーミングはともかく、味はすっごく良かったんだ。お料理に関しては天才的なサンチョさんもうなってたくらい。
 だからサンチョさん、研究がてらって名目付けて大量に買ってさ、みんなに大盤振る舞いしたんだけど。最初戸惑ってたオイラたちも、何だかんだ言って結局ペロッと食べちゃったんだよね。まあ、『バキューム』ゲレゲレは、大好きな甘いモノをいっぱい食べられて幸せだったみたいだけど。
 ミニモンも最初こそ名前にケチつけてたくせに、
「あらちょっと、何よ、結構いけるじゃないのよ、も1個、……ダメダメ太っちゃう、……でもも1個」
 なんて言いながら、両手いっぱいにお菓子つかんでさ。
 ドリス姉ちゃんも、やっぱ女のコだよね。ソラ嬢ちゃんと二人で、きゃあきゃあ言いながら食べてたんだ。それで、姉ちゃんが一番気に入ったのが、マシュマロだった。
 ほら、例のアレ、『赤ちゃんうさぎの〜』っていうやつ。
「いやーかわいいー!赤ちゃんうさぎだって!ふわふわってしてて!美味しいー!やめられないー!!」
 幸せそうな顔して、真っ白いふわふわのマシュマロを次々に口に放り込んでた。
 だからオイラ、カデシュ兄ちゃん、それを見てたんじゃないかと思うんだ。
 だって、でないとあの兄ちゃんがあんな恥ずかしい名前のお菓子、買うと思う? 想像できないよ、とっても。

 兄ちゃんはもう1個、マシュマロを上空に放り投げた。オイラがパクッとキャッチすると、急ぎ足で歩き出した。背中が、付いてくるな、って言ってたから、オイラは兄ちゃんがオイラのこと見えなくなるまで物陰に隠れて待ってたんだ。
 だって、気になるじゃないか。
 宿とは反対側に歩いていくんだもん。どこ行くんだろうって、気になるじゃない?
 ハッキリ言って、ものすごく好奇心が湧いちゃったんだ。
 あんなの持って、カデシュ兄ちゃんどこ行くんだろう、って。
 だからオイラ、兄ちゃんに気付かれないように、慎重に慎重に、跡をつけていったんだ。

 兄ちゃんは町はずれの港の方まで来て、砂浜に降りていった。
 ちょうど隠れるのにいいタルが積んであったんで、オイラはそれに隠れながら付いていった。
 そしたら、いた、いたよ。ドリス姉ちゃんが、ぼんやりしながら海を見つめて座ってたんだ。
 やっぱりね。そうじゃないかと思ってたけど。
 オイラは二人の背後のロープの束の中に侵入することに成功して、そこに翼を縮めて身を低くして、頭を引っ込めて、置物みたいにじっと固まった。角が飛び出ないように手で押さえようとしたけど、手が短くて目の辺りまでしか届かなかったから、すごく窮屈な格好になっちゃった。
 でもここまできたら、この後の展開を見届けなきゃって思った。
 いつもみたいに、ミニモンがお邪魔に入ろうとしたら止めなきゃって思ったし!
 兄ちゃんにばれたら、すごーく気まずいんだけど。って言うかオイラ、兄ちゃんの魔法で燃やされそうだけど。

 兄ちゃんと姉ちゃんって、なんか、みんなと違うんだ。
 みんなでいるときと、二人でいるとき。なんか、違うんだ。
 一緒に旅する仲間なんだってことには変わりないんだけど。でも、オイラ、それだけじゃないと思う。
 初めて兄ちゃんがお城に来た頃から、何だかこの二人って、特別な空気があってさ。
 それが何なのか、オイラにはよく分かんないんだけど。
 でもそれは、ご主人さまとビアンカさんの間にあった空気に、すごく似てるような気がして。
 懐かしい感じ。
 あったかい感じ。
 ホッとする感じ。
 人間と敵だった頃には、感じたことがなかった感覚。やわらかくて、くすぐったくて、ふわふわってしてて、でも時々、ピリッてしてる。
 ご主人さまやビアンカさんと一緒に旅してた頃のこと、例えば、夜中に寒くて震えてたオイラを「お入り」って言って、そっと自分のマントに包んでくれたご主人さまの、そのあったかさを思い出しちゃうような、そんな感じ。

「ドリス」
 カデシュ兄ちゃんに声をかけられて、姉ちゃんはビクッとしたみたいに振り返った。
「ビックリした!あんたか」
「こんなところで何をしている?」
「……何だっていいでしょ」
 兄ちゃんは姉ちゃんと、ちょっと距離を置いて座った。
 兄ちゃんってさ、誰に対してもそうだけど、いつも、ちょっと人と距離を置くんだよね。オイラは何でだろうって、思うんだけど。だって、側にいた方があったかいじゃない。ご主人さまは、いつもそう言ってオイラたちとくっついて座ってたから。そのあったかいのが、オイラも大好きだったから。
 でも、姉ちゃんも姉ちゃんだよね。
 何だっていいでしょ、なんて、そんな突き放した言い方しちゃダメだよ。
 ご主人さまに「どうしたの?」って言われたとき、ビアンカさんはいつもきれいに笑ってた。「ううん、何でもないのよ」って優しい声で。その言葉を聞いたら、ご主人さまもオイラたちも、ホッとして嬉しくなっちゃうんだ。
 なんで、この人たちにはそれができないんだろう。人間って、フシギ。
「何だっていいことで、1時間もこうしているのか?」
「……っ!? あんた、何でそんなこと知って……!」
 オイラ、ピンときちゃった。
 兄ちゃんは姉ちゃんが一人でいる時を見計らってたんだ。だから、あんなに急ぎ足だったんだね。
 嬉しくて、思わず尻尾がピコピコ動きそうになるのを、必死でこらえた。
「……やる」
 アンノジョー、兄ちゃんは包みを姉ちゃんに差し出した。差し出したって言うか、押しつけたっていう感じだったけど。
 ああ、もう。見てらんないよ。
 どうしてそんな、そっぽ向いて押しつけるみたいにしかできないかな。
 ご主人さまだったら、絶対もっとやさしく言ってるのに。それでビアンカさんが、「ありがとう」って、ビックリしたような、嬉しそうな顔して言うんだ。
「え?何?」
 姉ちゃんは怪訝そうに、包みとそっぽ向いたままの兄ちゃんを見交わした。
 ほら、兄ちゃんがあんなやり方するから。
 もう、ホントに、この人たちってさ。
 オイラの大好きなあの、「ありがとう」の顔、見られないじゃないか。
 カサカサッていわせて包みを開ける姉ちゃんに、兄ちゃんは先回りするみたいにして言った。
「王子と王女が、もっと欲しいとだだをこねてな」
 ちょっとちょっと、違うでしょ兄ちゃん。
 テン坊ちゃんたちをダシにして適当な嘘ついて、誤魔化さないでよ。
「間違えて買いすぎた。余ったところで仕方ないからな。だからお前にやる」
「ふうん」
 姉ちゃんはちょっと不思議そうな顔をして、マシュマロの包みを見つめていた。
 もう、兄ちゃんのバカ!何でそういう……
「ありがと」
 え?
「あたしこれ、気に入ってたんだ。……へへ、甘くってふわふわしてて、美味しいんだよね」
 姉ちゃんは嬉しそうに笑って、早速1つ、口の中に放り込んだ。
 兄ちゃんがそれを黙って見ている。
 心なしか表情がやわらかく思えたのは、きっと気のせいじゃない。
 何なんだろう、この人たちは。
 ご主人さまとビアンカさんみたいな、ああいうあったかい言い方じゃないのに。どっちかって言うと、「ああ、もう!」って思っちゃうような、そんな言い方なのに。
 なのにどうして、同じところに辿り着けるんだろう。
 同じ気持ちに、辿り着けるんだろう。

 人間って、フシギ。

「はいカデシュ、あんたの分」
「…………」
「何よ、いらないの?」
「そうは言っていない」
 姉ちゃんは「もう」と膨れっ面をしつつも、兄ちゃんの手にマシュマロを乗せた。
「ねえ、これ、サンチョなら作れるかな?」
「さあな」
「きっと作れるよね、サンチョ色んなお菓子のレシピ、自分でいっぱい作ってたし」
「そうか」
「この間ね、新しいティラミスを研究してたのよ。テンソラが大好物になっちゃってさ」
 二人は何だか楽しそうに(?)会話を弾ませて(?)いる。
「ドリス」
 ふいに、兄ちゃんが苦笑いしたみたいな顔をして。
「クリームが付いているぞ」
 言って、姉ちゃんの唇に手を伸ばした。上唇の端っこに、マシュマロの中に入ってる甘いクリームがついてたみたい。姉ちゃんはビックリしたみたいな顔をして、固まっていた。
 オイラも、正直固まっちゃった。
「…………」
 すくったクリームをどうしようかと、兄ちゃんが一瞬考えたみたい。
 そのスキを付いた姉ちゃんが。
 怒ったみたいな顔をして兄ちゃんの手を取ると、ペロッて、その指を舐めた。

 ……………。
 オイラは気付かれないように、じりじりと後ずさりし始めた。
 ……何か、オイラ、恥ずかしい。お邪魔虫って、感じ。
 後ずさりして、オイラは自分がロープの中に隠れているってことを忘れてた。
 そして、オイラの後ろにはたくさん積み上げられたタルがあったってことも。

  どんがらがらがらがら!!!!

「ギャウッ!」
 いきなり背後で聞こえた悲鳴と、タルの崩れる騒音に、兄ちゃんも姉ちゃんもビクッとなって振り返った。二人が見たのは、ちょうど目隠しになってた山積みのタルが崩れて、自分たちをキョトンとなって見つめている、船に荷積みしていた船員たちと、タルの下敷きになってるオイラ。
 もちろん、兄ちゃんと姉ちゃんはまだ、手を取り合ったままだったわけで。

 うわあ。
 オイラ、大失敗。
 ……………。



「あれー?コドランどうしたの?」
 その夜、テン坊ちゃんが、ボロボロになったオイラを見つけて目を丸くした。
 火傷と生傷だらけになったオイラ。
 何があったかなんて、口が裂けても言えないよ……。


仲間にしたいモンスターを挙げるなら、コドラン可愛いよコドラン!となったので。
スライムは当たり前すぎるしホイミンしゃべらないしどうしよう、となったところでそうだコドラン!と決定しました。

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