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Novel
DRAGON QUEST V + 天空物語 > 邪魔〜Your Eyes Only〜

 単調な波の音が響いている。
 スカルアロウ号のメインブリッジでは、外の静けさが嘘のように大宴会が行われていた。
 キャプテンのオーゼルグが船に戻り、シャクバたちを追い出したことによる祝賀会だった。
 久々に行われる盛大な飲み会に、海の男たちは今までにたまった鬱憤を全てぶちまけて、笑い合い、飲み交わした。
 それでもしかし、そこはいつ魔物が現れるとも分からない海の上。
 いかなる時でも、最低限の見張りは立てておかなければならない。
 それまで見張りに立っていた数人から、交代の指示が下り、当番の回ってきた男たちはのっそりと立ち上がった。
 メンバーは、ヤガモトを長とする6人。ヤガモトに続いてブリッジから甲板に出てきた順に、仮称1、2、3、4、5という。せめて固有名詞を語り伝えてやりたいが、本筋とは関係ないので残念ながら割愛する。

 1が言った。
「いやぁしかし、キャプテンが戻ってきてくれてホントに良かった」
「ああ、まったくだ」
 2が受けた。
「あのままだったら俺たち、どうなってただろうな」
 3が不安そうに呟き、
「一生シャクバにえらそうにされてたかと思うと、やりきれねえぜ」
 4が腹立たしげにうなずく。
「でもまあ、何はともあれ良かったじゃねえか」
 5がのんびりと笑った。
「ソラちゃんも会いたい人に会えたし、キャプテンも帰ってきたんだしよ」
「その通りだ」
 ヤガモトがうなずいた。
「やっぱりキャプテンは強い。俺たちにとっちゃ伝説の勇者なんかよりすげえ、英雄だぜ」
 全員の目が、誇りに輝く。
 彼らのボスであるキャプテン・オーゼルグは、貧乏海賊ではありながらも、彼らの夢とロマンを一身に体現している人物なのである。
 1が目を輝かせ、
「そうですよ!俺、あの時キャプテンに付いてきて良かったって思いました!」
 2がうなずき、
「俺もだ!やっぱキャプテンのやり方が一番だぜ!」
 3が嘆息し、
「シャクバと言ったら、俺らに全部押しつけるばっかで威張ってただけだったしな」
 4が意気込んで、
「キャプテンはキャプテンのやり方で、今できる精一杯をやったんスね!」
 5が尻馬に乗り、
「キャプテンは間違ってなかった。自分の信念を貫いたんだ!」
 海の男ってヤツだぜ!と全員が歓声を上げる。
 それにヤガモトが総括した。
「よし、じゃあ俺たちは俺たちの、今できる精一杯をやろうじゃねえか」
「おう!」
 意志疎通の早い優秀なる見張り当番一同は、早速それぞれの配置に散らばった。
 1は船首から右前方面へ駆けていった。2は左側前方、3は左後方、4は船尾に、5は右後方、そしてヤガモトが見張り台に登る。
 6つの灯りが、スカルアロウ号にチラチラと、蛍のように漂い始めた。


 見張り台の上で一心に望遠鏡を覗き込み、水平線の彼方を見つめていたヤガモトのもとに、緊急の連絡が来たのは10分後だった。見張り台を登り、ひょこっと顔を出したのは2。
「ヤガモトさん、なんか5から伝言です。全員右後方の甲板に集まれって」
「何だ、全員集まったら他からの襲撃に備えられねえじゃねえか」
「いやそれが、緊急らしいんです。いいから急いで来いって。他のヤツラはもう行ってるみたいです」
 まさか、魔物の襲撃か!?右後方には、ソラたちの乗るフローリア号があるというのに!!
 緊張感が走りつつ、ヤガモトは2の後に続いて駆け足で右後方に向かった。

 目的地に到着したヤガモトたちを迎えたのは、1から5の、暗い甲板に舳先にへばりついてしゃがみ込んでいる姿だった。
「ど、どうしたんだお前ら!」
「モンスターの襲撃か!?」
「どこだ、どいつだッ!?」
 大声を上げた二人を、5が叱責した。
「しーーーーッ!お前らもしゃがめ!!」
「え?」
「いいからしゃがめ!!!」
 同時に1と3の手が、二人の手首を容赦なく猛烈な勢いで引っぱり、二人は鼻から舳先に激突した。
「な、なにす……!」
「危ないじゃ……!」
 鼻を押さえて抗議しかける二人を、4が怖い顔で睨みつけた。
「シッ!声を出すな!!」
 5がほふく前進で移動してきて、鼻血が出ていないことを確かめ、
「大丈夫だ、大したことはない。いいからとにかく静かに」
 ヤガモトも2もぽかんとしていたが、1からの小声での説明に納得した。
「フローリア号の甲板に、カデシュさんとドリスさんがいるみたいなんスよ」

 カデシュとドリスというのは、キャプテン・オーゼルグがしばらく行動を共にしていた仲間である。
 彼らの悲願でもあるキング・オブ・オーシャンを追って、テン王子を中心とするグランバニアの王侯ご一行に同行している仲間。少なくとも、当の二人はそう言う。
 だがスカルアロウ号の乗組員一同は、誰もそれを額面通りに信じてはいなかった。
 実はこのドリス、密かにスカルアロウ号乗組員一同の憧れの星でもあった。これまで海の男として海賊船の激務にまみれ、ひたすらに海と船とを恋人にしてきた彼らの前に、久々に現れたうら若き美少女だったのである。
 もちろん、彼らにとってはソラもアイドルであるのには変わりない。
 しかしそれはそれ、これはこれ。ソラは守ってあげたい娘のようで、妹のようで、可愛くて仕方ないのは事実。だが恋愛の相手として定めるならば、やはり目の前に突如として現れたこのうら若き美少女を捨て置けるわけがない。
 しかもドリスはその愛らしい顔立ちもさることながら、「ぼんっ」で「きゅっ」で「どかんっ」な男のロマン的ナイスなボディラインの持ち主なのである。そして気さくに笑いかける明るい性格も、親しみやすさに相乗効果をもたらしている。
 乗組員一同、まさに眼福と心の癒しを一挙に得た思いだったのである。

 ところが同じく突如として現れた、このカデシュなる男に、一同はなんとなく嫌な予感がしたという。
 シャクバの仲間であるヤグナーたちとの戦闘では、類い希なる魔法の腕前を披露してみせた。気品ある美しい顔立ちであり、虚弱気味の細身の体つきも乗組員一同とは正反対。足は長いしたまーーーーーに笑うと白い歯はこぼれるし、欠点のない嫌味なヤツかと思いきや、なんだか色々と涙の出るような半生を送ってきた苦労人でもあるらしい。
 それがドリスと何だかいい仲なんじゃないかと察知して、乗組員一同は諦めた。
 しょせん俺たちはその他大勢、まあ精々ヤツラの幸せを祈ってやるか。
 そういういかにも海の男らしい豪傑な踏ん切りを付けた彼らは遠巻きに、倒れたカデシュの看病をするドリスだとか、他愛のない会話だとか、そういったほのぼのした交流を見守っていたのである。
 それが!
 それがッ!!
 今、かの二人が二人っきりで夜の甲板に立っているのである。
 しかもちょっと人目をはばかるような、ちょうどマストに隠れる場所に。
 なんでこんな夜に甲板に出ているのか。
 なんでわざわざ二人きりなのか!
 なんでそんな人目をはばかるような場所に立つ必要があるんだこら!
 これがちょこっとばかり覗かずに、いや見守らずにいられるか!
 いやいられない、もちろんいられるわけがない。
 世間に負けた。
 いや、海の男としての好奇心に負けた。
「おい2」
「なんです?」
 ヤガモトの声に、2は慌てて訊き返す。
「双眼鏡だ」
「は?」
「双眼鏡、取ってこい」
「そ、双眼鏡、ですか」
「望遠鏡じゃ距離が近すぎてピントがさだまらねえ。双眼鏡だ」
「は、はいッ!」
 弾かれたように2が駆け出し、ヤガモトは持っていた望遠鏡を、それでもフローリア号の甲板に向ける。そして、「おっ」と声を上げた。
「なんです?」
 1が慌てて尋ねた。
「ピントがズレてて何も見えない!」
「ああっ、やはり!」
 そこへ、2が双眼鏡を持って戻ってきた。気が回らないのんびりした性格の2、持ってきた双眼鏡はたった1つであった。それを奪い合い、しばし静かな死闘が繰り広げられる。
 激闘に打ち勝った5が双眼鏡に目をあて、「おお!」と声を上げた。
「なんだ、どうした」
 ヤガモトが訊くと、
「カデシュさんの頭発見!」
「よし!」
「何をしてる?」
「向かい合って何やら会話している模様」
「了解!」
「了解!」
「監視続行!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「って、ああッ!!!」
「なんだッ!?」
「ドドド、ドリスさんが泣いているッ!!」
「何だと!」
「何だと!」
「何だと!?」
「か、監視を続行しろ!!」
「了解!!」
「了解!」
「了解!」
 どう見ても異様な集団だが、本人たちはそれなりに真面目に一致団結しているためセリフ回しは真剣そのものである。
 その団結がもろくも崩れ去ったのは、カデシュがドリスにペンダントを贈った、その瞬間を目にした5が、興奮のあまりうっかり甲板の遥か下の海面に、双眼鏡を取り落とした瞬間だった。

 ばしゃーん!

「あっ」
「あっ」
「あっ」
「あっ」
「あっ」
「あっ」

 硬直したその数秒後。
 激怒した数名が5に襲いかかり、かばう者殴りかかる者で混乱のるつぼと化した。
 しかしそれから更に数分後、誰かが予備の双眼鏡を取ってくればいいじゃないか、と2がおっとりと指摘すると、それを誰が取りに行くかでまた大もめにもめ、結局じゃんけん勝負に負けた4が大急ぎで駆け出していき、それをやきもきしながら一同が待っている最中。
 その遠慮がちな声はかけられた。
「……何やってんだ? おまえら」

 ビクッと跳び上がって振り返ると、そこには怪訝そうな顔をしたキャプテン・オーゼルグ。
「それに、何でみんなそんな格好で」
 自分たちが激闘の最中にも這いつくばっていたことに気付いて、ヤガモトがまず「しぃっ!」と口に人差し指を当てた。
「なんだ、どうした?」
「キャプテン、静かに!」
「あそこ見てくださいよあそこっ!!」
 オーゼルグをしゃがませ、ヒソヒソと小声で言うと、オーゼルグが「ぬおっ!?」と声を上げた。
「あ、あれはまさかっ!」
「そうなんですよキャプテンッ!!」
「ドリスと兄ちゃんかッ!!?」
「そうなんです!そうなんですよ!!」
「ということはアレは、あの雰囲気は、もしかしてもしかするのか!!?」
「はいっ!!!」
 オーゼルグまでが、好奇心に負けたらしい。
「面白ェじゃねえかッ!!!」
 少年のように目をキラキラさせたオーゼルグ、叫ぶなり彼を取り囲むクルーたちを見回し、
「おい!誰か双眼鏡!!」
「今4が取りに行ってます!!」
「よし!おい3!」
「はいッ!」
「宴会やってる他の奴らも呼んできてやれ!!最高の肴だっ!!!」
「はいっ!!!」
 3が大慌てで走っていった。それと入れ違いに、双眼鏡を抱えた4が戻ってくる。
「お待たせーー!!あったぞ双眼鏡!!」
「よぅしよくやった!!」
 早速1つずつひったくり、オーゼルグとヤガモトはそれぞれに目を双眼鏡にあて、フローリア号の甲板を覗いた。
「おおっ?」
「な、何ですか!?」
 思わず1と5が声を上げる。
「何やってんだあの野郎は!!」
「微笑みあってるだけですか」
 オーゼルグとヤガモトが、あーあ、という感じでため息をつく。
「オマエ、男ならそこで抱きしめてしまうとか、押し倒すとかッ!!」
「せめて手を握るくらいできねえんでしょうかッ!?」
 二人の興奮ぶりにつられて、他の面々も双眼鏡を手に取り、フローリア号に向けた。そして、同じように「あーあ、もう」と吐息をもらす。
「おあっ!?」
 オーゼルグが叫び、みないっせいにフローリア号の甲板を凝視する。
 ドリスがつっと進み出たかと思うと、何やらカデシュに耳打ちするような仕草をした。
 こくり、とカデシュがうなずく。ドリスがニコッと笑った。
「なんだなんだ!?」
「何なんだ今の耳打ちは!?」
「まさか、『今夜仲良くしましょう』のお誘いか!?」
「うわあ、急展開だあ!!!」
 わくわくしながら一同が見守っていると。
 カデシュが、何やらこちら側に向かって手を差し出した。
「?」
「?」
「?」
「?」
「?」
「?」
「?」









「うっス、おはよう」
 翌朝、オーゼルグは再びフローリア号に乗り込み、スカルアロウ号の今後のことを伝えるためテンたちの前に立っていた。
「ど、どうしたのオーゼルグ!」
 オーゼルグの有様を見て、テンとソラが目を丸くする。
「まさか、魔物の夜襲が!?」
 驚くサンチョに、オーゼルグは「ああ、いや」と語調を濁した。
 昨夜あれから、突然フローリア号の甲板から飛来したいくつもの火炎弾が命中し、オーゼルグを含め、スカルアロウ号の乗組員たちは逃げまどいながらそれぞれに火傷、打ち身、捻挫等、負傷していたのである。
 額に巻かれた痛々しい包帯と、火傷の痕。そして、ちりちりに焦げた黒髪。
「ちょっとした好奇心が仇になったっつーか」
 ごにょごにょ、と言った途端、ドアの辺りからかわいらしい声がかけられた。
「あーら、どうしたのオーゼルグ、その傷」
 振り返ると、花のようににこやかに微笑むドリス。その後ろには、極北のオーラをまとったカデシュもいる。オーゼルグは、背中につららが生えたような気分でギシッと固まった。
「どうせ酔っぱらってケンカでも始めたんでしょ。お酒もほどほどにしなきゃダメよ〜」
「…………お、おお……」
 ギコチナイ笑みを必死に浮かべながらそう言い、踵を返して逃げようとするオーゼルグの腕をガシッと捕まえた。
「な……」
「キャプテンがキャプテンなら、クルーもクルーよね〜。ホント、一心同体って言うか」
「まったくだな」
 ドリスの横から、カデシュが言った。目が据わっていた。
「メラミに抑えただけでもありがたいと思え」
 ヒッ、とオーゼルグが息を呑んだのが分かった。
「お、お二人とも、どうなさったんですかな?」
 おずおずと問いかけるサンチョに、ドリスがにこやかに微笑みながら
「んーん、何でもないのよ。気にしないで」
「いやしかし……」
「気にしないで」
「はい」
 笑顔の下の無言の圧力に、サンチョも引き下がるしかなかった。
「さて、では細かいことは置いといて、出発するとしましょうか!」
「うんっ!」
 テンソラが元気良く返事をした。


 まあそんなわけで、傷を負いながらも何とかタコ軍団と奮闘し、スカルアロウ号が勝利を収めたのは周知の事実であるが、ドリスとカデシュがそれからしばらく、クルーたちに対して冷たい態度を取ったことも事実であった。
 頑張れオーゼルグ!
 負けるな僕らのスカルアロウ号!!


ああ楽しかった(笑) 書いてる間中自分が一番楽しかったです。
スカルアロウのおバカで気のいいクルーたちが大好きすぎてこんなん出ました。
反省はしている。だが後悔はしていない。

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