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Novel
Harry Potter > コリン・クリービーの受難

 僕はコリン。コリン・クリービー。
 憧れのハリー・ポッターと同じグリフィンドール寮の生徒で、彼より1つ年下の男の子。
 勉強はあまり得意じゃないけど、誰より負けないって思ってるのは写真の腕さ! 僕はどんなところへだってマイカメラを持っていくし、どこでだって憧れのハリーを撮り続けてる。
 だって彼はとっても格好良くて、僕が一番尊敬してる人なんだ。
 ほら見てよ、彼を撮った写真をアルバムにしたのが、もうこんなにあるんだ!
 最初はハリーも僕のことうっとうしがっていたけど、今はもうそんなのにも慣れたみたい。僕の好きなようにさせてくれてる。きっと、僕が写真を撮るだけでそれ以上騒ぎ立てたり、写真をばらまいたりってことを一度もしなかったからじゃないかな。
 僕だってバカじゃないんだから、大好きな英雄に対してそんな失礼なことするわけないじゃないか。
 だから僕のことを認めてくれたみたいで、とっても嬉しいんだ。

 最近は、ハリーだけじゃなくていろんなものを撮るようにしてる。
 実は夏休みに家に帰ったとき、父さんにアドバイスを受けたんだ。本当に良い物を撮りたいと思ったら、人物だけじゃなくていろんなものを撮ってみなさいって。そうすることで、どの角度がいいとか、光の加減とか、背景の具合とか、いろんなことが分かるんだって。
 そんなわけで、僕は今日もマイカメラを首からさげて、ベストショットを狙って学校内のあちこちを探索していた。

 まず、フクロウ小屋。ここには数え切れないくらいのフクロウがいて、被写体には困らない。
 眠ってるショット、くちばしで羽の手入れをしてるショット、または飛び立つ一瞬。
 動きのある写真を収めるのって難しいけど、マグルの写真と違って魔法使いのはみんな動くから、返って楽なんだよね。
 僕が夢中で写真を撮っていると、誰かが登ってくる足音が聞こえた。
 振り返ると、長いサラサラの髪をした上級生の女の子が立っていた。この人は知ってる。
「あら、あなた確か、カメラの子ね」
 僕って他の寮生からそんな風に思われてるのか。まあ嫌じゃないけど。
 そう思いながら、僕は彼女、レイブンクローの才女、チョウ・チャンを見上げた。
 断っておくけど、僕は別にそこまでチビなわけじゃない。下からのアングルでフクロウを撮ってたから、そうなってしまっただけ。立ち上がると、チョウよりちょっぴり背が低いだけだ。
「フクロウ便ですか?」
「ええ、両親に。親戚のお姉さんが今度結婚するっていうから」
 魅力的に笑って、チョウは近くにいたコノハズクに手紙を託した。
 きれいな女の子とフクロウ。飛び立つ瞬間と、それを見つめる瞳。舞い散る羽がきっと陽の光に反射してきれいだ。今日のベストショットは、ひょっとするとこれかな?
 僕は早速カメラを構える。
 チョウは別段気にするでもなく、小屋からコノハズクを飛ばした。うん、我ながらいいものが撮れたと思う。僕がにこにこしてると、チョウはニッコリ笑って、
「良い写真が撮れた?」
「はい、ご協力ありがとうございました」
「うまく映っていたら、私にも1枚ちょうだい?次の便で両親に送りたいの」
「もちろんですよ!一番いいのをどうぞ!」
 僕は迷うことなく、ザッと見て一番上手く撮れていると思った写真を彼女に渡した。魔法使いのカメラって、すぐに現像できちゃうんだから便利だよね。
 チョウは嬉しそうに笑って、ありがとうを言って小屋から去っていった。
 写真を撮らせてもらって、おまけにありがとうまで言われたのって、思えば初めてだった。僕は嬉しくて、にこにこしながら小屋を出た。

 次に向かったのは中庭だ。
 放課後の中庭は、光が落ち着いてきていいんだけど、あっという間に暗くなっちゃうから光加減が難しい。逆光にならないように気を付けて、被写体になりそうなものを探す。
「あら、獅子寮のカメラ小僧じゃない」
 びくっと、僕は身をすくませた。この声は。
「何よその顔。ホグワーツ一の美少女であるあたしを無視する気?」
 声の主であるスリザリン寮の女生徒、パンジー・パーキンソンはきれいに整った片眉を上げてにやりと笑った。まるで自分こそが一番の被写体だと信じてやまないみたい。
 うへえ、と僕はげんなりする。この人は苦手だ。僕を見ると、必ず絡んでくるんだから。あることないこといちゃもん付けてさ。頼むから見逃してよ。
「何してるのよ」
「へ?」
「せっかくあたしが一人でいるんだから、心おきなく撮っていいのよ?」
 そう言って、ご丁寧にポーズまで付けてくれた。
 他の女の子ならとてもありがたいけど、パーキンソンはちょっとなあ。確かに姿形だけ見てればすごく可愛いんだけど、性格が……。
 僕が密かにそんなことを思っていると、彼女は辺りを見回し、陽の光が上手い具合に当たった場所を見つけたらしく、僕の手を引っ張って歩いていった。パーキンソンは女の子にしては背が高い方だから、当然、僕は文字通り引きずられてしまう。
 見事な手つきで周囲を整え、どこで見つけたのか既に手には花なんか持ってたりする。
 清楚な仕草でもったいぶって腰を下ろし、ローブの広がり具合だとか髪だとかリップだとか、何だか分かんないけど色々整えて、いい加減僕がうんざりし始めた頃になって、ようやくパーキンソンが僕を見た。
「さ、いいわよ。好きなだけ撮りなさいな」
 ここで、彼女に逆らう勇気がひとかけらでも僕にあったなら!
「……じゃ、じゃあ、笑って……」
 途端にパーキンソンは、今まで誰にも見せたことがないんじゃないかと思うほど、きれいで素敵な笑顔を見せた。字で表すなら、まさに「花がほころぶような」っていう、あれ。
 思わず僕もどきっとした。だって、そのくらい可愛かったんだ。確かに黙って静かにしてれば、彼女は可愛いわけだから。普段からそうしてれば、きっともっと人気が出るだろうに、それに気付かないなんてバカだよなあ。
 あっちのアングルこっちのアングル、立って、座って、接写、遠写。数十枚も撮った頃になって、彼女の友達らしいスリザリン寮の女の子が数人やってきて、パーキンソンを呼んだ。
 パーキンソンは僕の前に並べられた写真を注意深く点検し、「これはだめ」「こっちもだめ」と言いながらぺっぺっと弾いていき、一番上手く撮れた写真を僕から取り上げると、満足げににやりと笑い、
「ご苦労様、あとは捨てて良いわ」
 とだけ言って、ローブを翻して去っていった。
 僕はどっと疲れた気分だった。もうこのまま寮に戻ってベッドに入りたいくらい、疲労困憊していた。精神的に。
「あら? コリンじゃない」
 ふいに背後からかけられた可愛らしい声に、はっと我に返った。聞き慣れたこの声は。
「グレンジャーさん!」
「ハーマイオニーでいいのよ」
 にっこり笑って、彼女はふわふわの栗毛を揺らして立っていた。もちろん両手には大量の本。
「それよりどうしたの? とっても疲れた顔してるわ」
 優しく気遣ってくれる彼女の瞳に、僕は一気に体の力が抜ける思いだった。
 あああ、癒される……。パーキンソンの後だから、余計に。
 僕はグレンジャーさんに、今さっきの出来事を話した。グレンジャーさんは僕の横に腰を下ろして、ふんふん、と聞いてくれていたが、
「相変わらず横暴な人ね。気にすることないわコリン、あの人は自分がこの世で一番可愛いって思ってるのよ」
「はあ」
「まあ確かに、パーキンソンは顔だけ見てれば可愛いかもしれないけどね」
 確かにさっき写真を撮ったときに見せた笑顔は可愛かったけど、僕から言わせれば、パーキンソンなんかよりグレンジャーさんの方がずっとずっと可愛いけどなあ。
 何て言うのかな、知的なかわいさってやつ?
「ああいうのを性格ブスって言うんですよね」
 眉根を寄せて僕が言うと、グレンジャーさんは思いっきり吹き出した。
「コリンがそんな風に言うところ、初めて見た」
 にっこり向けられた笑顔が、とっても可愛かった。さっきのパーキンソンの作り笑顔なんか、目じゃないくらい。
 そりゃそうだ、パーキンソンは確かに撮られ慣れてるみたいだったけど、その笑顔は作り物だったもの。今目の前で笑ってるグレンジャーさんの笑顔は、正真正銘、本物の笑顔なんだもんな。
 そうか、ハリーもロンも、いつもこんな素敵な笑顔を見てるんだ。
「あの、グレンジャーさん」
「うん?」
「僕そういえば、グレンジャーさんだけの写真って撮ったことないなって思ってたんです。撮らせてもらっていいでしょうか?」
 すると彼女は「なあんだ」と笑って、
「そんなこと。私でよければ好きなだけどうぞ」
 僕はもう、大喜びで激写しまくった。
 グレンジャーさんは意外にもリラックスした様子で本を広げ、時折僕と冗談を言い合って笑う。その笑顔を、僕が写真に収める。
 何て充実した時間なんだろう。
 陽の光に透けるグレンジャーさんの髪は、ふわふわしてるのにきらきら輝いて、夢みたいにきれいだった。
 どうやら彼女は、小さい頃からご両親に写真をいっぱい撮られてたんだって。魔法使いの写真が動くんだって知ったときはびっくりしたわ、って笑った。僕も同じだ。
 ハリー達は居残りさせられてるのよ、仕方ない人たちでしょう、って、困ったように笑う顔。彼女の飼い猫クルックシャンクスが偶然にもやって来たから、クルックシャンクスを抱き上げて微笑む姿、キスする所。クルックシャンクスがどこかから持ってきた花(偶然にも、さっきパーキンソンが持っていたのと同じ花だった)をたっぷりした髪に差して、ちょっとポーズを取ってみたり。
 今日1日で、グレンジャーさんの写真がいっぱいできた。
 お礼を言って別れると、グレンジャーさんは大量の本を抱えて図書館の方へ歩いていった。あれ全部、今日までに返却しないといけないんだって。本当にすごいなあ、グレンジャーさんって。ハリーは永遠に僕のヒーローだけど、グレンジャーさんも僕のヒーローだよ。とても尊敬する人だ。
 もちろん、その尊敬すべきグレンジャーさんに、今撮った中で一番いいのを渡すことも忘れなかった。
 さあ、今日は部屋へ戻ったら、今日一日に撮った写真をアルバムに貼り付けよう。
 今日のベストショットはどれだろう。最初のチョウかな。グレンジャーさんかな。……パーキンソンじゃ、ないでほしいな。
 そんなことを考えながら、グレンジャーさんにもらったチョコレートキャンディーを口へ放り込む。疲れたときは甘い物が良いのよ、と言って、さっき僕にくれたんだ。
 やっぱり素敵だなあ、グレンジャーさんって。
 くふふ、と笑って寮へ続く曲がり角を曲がろうとしたときだった。
「おい」
 曲がろうと思った方と反対側から、声をかけられた。僕は飛び上がりそうになって、慌てて声を飲み込んだ。
 だって、振り返った僕の目に飛び込んできたのは、できるなら一生遭遇したくない人だったからだ。
「ま、ま、ま、マルフォイ!」
「上級生に対して何だその態度は。礼儀知らずばかりが揃っているのか、獅子寮は」
 ふん、と鼻で笑うと、彼、ドラコ・マルフォイはアイスブルーの冷たい瞳をすがめて、僕を見下ろした。
「さっきグレンジャーといただろう。あの中庭は僕のお気に入りなんだ。まったく、よくもお前達マグルの血で穢してくれたな」
 ひいい、やっぱりこの人怖い!!
 ジロッと睨まれて、僕は身を固くした。まさに蛇に睨まれたカエル状態だ。
 こんな人に正面切って立ち向かっているハリーやグレンジャーさんたちが、更に勇者に思えてならなかった。硬直しきった僕の腕から、大量の写真がばさっと束になって落ちた。今日撮った写真の山だ。
 僕は、全身の血がサーッと引いていく音を聞いたような気がした。
「おい、何やってんだマルフォイ!」
 こっ、この声は!!
「何だ、お仲間を助けに来たって言うのか? ずいぶん偉くなったもんだなポッター」
「コリンから離れろよ!」
 続いて走ってきた赤い髪。あああ、天の助けっ!!やっぱり神様は見ててくれるんだ!!僕のピンチに、僕が尊敬してやまないハリーとその大親友が僕を助けてくれるなんて!!
 僕が涙を流して感動していると、マルフォイは床に散らばった写真の束にしゃがみ込んだ。
 ああっ、やめて!踏んづけないで!破らないで!それは今日の僕の戦利品!!と言うか芸術作品!!
 マルフォイは写真の束から何枚かを拾い上げ、ローブのポケットに突っ込んだ。
 そんな!!ひどい!!あれは僕の作品なのに!!!
 身もだえしつつ半泣きになっている僕をじろりと見ると、マルフォイはもう片方のポケットからガリオン金貨を1枚取り出し、それを指で弾いて僕によこした。訳が分からず、唖然としていると。
「何だ? 足りないのか? お前達貧乏人には充分すぎる値段だろう」
 いや、そういう問題じゃなくて。
 え? 今、何が起こってるの???
「ちょうど10枚だ。もらっていくぞ」
 え? え??
 ぽかーんとしている僕たちを後目に、マルフォイはどんどん歩いて行ってしまった。
「何だよあいつ」
 一番最初に口を開いたのは、赤毛のロンだった。ハリーはガリオン金貨を握らされたまま呆然としている僕を見て、それから足元に散らばっている写真の束にしゃがみ込んだ。
「あーあー、せっかく上手く撮れてるのに。今日は何を撮ってたん……」
 散乱した写真を集めてくれていたハリーの言葉が、急に途切れた。
 そして……。
「あ、あのさあ、コリン?」
「え?」
「10枚で1ガリオンなの?」
「へ?」
「いや、僕今、持ち合わせがそんなになくってさ。全部で20クヌートしかないんだけど」
「えーっと、あの?」
 何の、話??
「おいハリー、どうしたんだよ」
 怪訝そうにハリーの持つ写真の束を取り上げ、ぱらぱらと眺めていたロンが、訳知ったりという顔でハリーを見てうなずき、「ふうん」と言ってまたぱらぱらと写真をめくり始める。
「あれ、ハーマイオニーじゃないか」
 と呟き、またぱらぱらめくる。そして、最初興味なさそうだったロンなのに。
「……ごめんコリン、僕今5クヌートしかないんだ……」
「え?」
 ロンまで、一体何?
「別に、5クヌートでも……」
 恥ずかしくなんかないと思うけど。
 そう続けようとした僕の言葉を遮るように、二人はぱあっと極上の笑顔を見せた。
 うわあっやめてよ!そんないい顔で笑わないで!僕、もうフィルム全部使い切っちゃってるんだからあ!!!
「じゃあ僕、20クヌートで5枚ね!」
「僕は5クヌートでこの2枚!!」
 ほとんど叩き付けるようにして僕にお金を渡すと、二人は脱兎の如くその場から駆け出した。何か、二人の言葉を見ると1枚換算の数字がだいぶ合わない気がするけど……って、そんなことじゃないんだ。一体二人とも、いや、三人とも、一体どうしちゃったんだろう。
 ローブのポケットを硬貨でチャリチャリ言わせながら寮に戻り、誰もいないのを良いことに、談話室のテーブルに残った写真を並べてみた。
 僕が持ってたフィルムは3本。それぞれ20枚撮り。つまり全部で60枚のはずだったんだ。
 一人1本ずつ撮ったから、それぞれ20枚ずつ写真があるはずなんだよな。
 最初に撮ったのがチョウ。全部で20枚あったはず。それが14枚になってる。ああそうか、ハリーが欲しがったのはチョウの写真だったんだ。1枚はチョウにあげたから、計算が合う。
 そこまできて、僕もようやく理解できた。
 あの三人は好きな女の子が写ってる写真だったから、欲しがったんだ。
 なんだ、そうだって分かってたら、ハリーやロンになんてただであげたのに。
 ということは、マルフォイが10枚にロンが2枚。
 うぎゃあ、マルフォイってパーキンソンの写真欲しがったりするんだ……。一体どこがいいんだろう。それにマルフォイだったら、こそこそ僕なんかから買わなくても自分で好きなだけ撮ればいいのに。きっとパーキンソンだって、張り切って撮らせてくれるよ。
 そう思いつつ、残りの写真を並べていって……。
 ――僕は絶句した。
「え?……うそ、……え?? 何で?」
 数が合わない。何回数えなおしたって、数が合わないんだ。
「あれ?」
 落ち着いて、もう一回。
 マルフォイが持ってったのが10枚。ロンが2枚。
 で。
 今僕の手元にあるのが。
 パーキンソンの写真、17枚。グレンジャーさんの写真、9枚。
 それぞれ1枚ずつ、本人が持ってるはずだから……。
「ええええええええええええ!!!!???」
 グリフィンドールの談話室に、僕の甲高い、悲鳴にも近い声がこだましたのだった。


すべて一方通行の片思いちゃんたちです。

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