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Novel
Harry Potter > ドラコと彼女の×××

 全ての元凶は、あえて挙げるならば、その日の午後あまりに天気が良すぎたことであろう。
 風は和やかに頬をくすぐり、草地を滑り降りていく。高い塔がいくつも絡み合うホグワーツの城の中を駆け抜け、上空へと舞い上がる。
 春先は、和やかな天気の中に、時として唐突な悪戯風が吹く。
「きゃあっ!」
 頭の上で女生徒の黄色い声が挙がり、何事かと目を開くと、ハッフルパフの上級生が数人、皆スカートを押さえて顔を赤くしていた。側を通りかかる男子生徒が、冷やかしの声や口笛を吹く。
「もう、何よ今の風!」
「ひゅー、もう一回吹かないかなー?」
「バカ!!!」
 思い切り罵倒される男子生徒と、彼らを追いかけ回す女子生徒。
 ―― くだらない。
 ドラコ・マルフォイはふんと鼻で笑い、再び目を閉じる。
 春はまどろみの季節。こうして中庭でうとうとするのがとても気持ちいい季節だ。
 それを悪戯風だか何だか知らないが、邪魔されるのはきわめて腹立たしい。
 ドラコとて年頃の少年なのだから、こういったことに興味がないかと言ったらそんなこともないのだけれど、自分が名門家の嫡男であるというプライドと、何より昨夜つい夜更かしをしてしまった事からくる眠気とには勝てなかった。
 うるさい、と怒鳴ろうかとも思ったが、その場の男子生徒には自分と同じスリザリンの生徒もいたから、いくら権力者の息子とはいえ怒鳴り散らすのも気が引ける。と言うか、ここは先程から生徒達が慌ただしく出入りしてはかしましくおしゃべりしていたから、ゆっくりまどろみに身を任せることができないでいたのだ。
 仕方がない。
 ドラコは珍しく、自分から折れた。
 ここは僕が、場所を変えるとしよう。
 ぼんやりと歩きながら、自分はなんと偉大なのだろうと、またここ最近寛大になったのだろうと思ってみる。
 彼の取り巻きであるクラッブとゴイルには、無理して付いてくる必要はないからと大量の菓子類を与え(実際彼らは夢中で菓子類を頬張っていて、ドラコが寮を出ていったのにも気付かなかった)、いつもベタベタくっついてくるパンジーには、新しい髪飾りでも買ってこいよと言っていくらか包んで渡した(早速パンジーは、大喜びでどこかへ出かけていったようだ)。
 要するに、ただ単にドラコが一人になりたいから練り上げた作戦だったのだが、取り巻き達はちっとも気付かずにだまされてくれた。
 一人になって、ようやくドラコはほっと一息ついた心地だった。
 今は誰にも邪魔されずに、ただ眠りたい。


 辿り着いたのは、ホグワーツの外れ。どこかの寮かと思われる塔の裏手に当たる場所だった。
 めったに人も寄りつかない草地で、先客も見あたらない。
 これは昼寝に絶好のスポットを見つけた。ドラコは手放しで悦んで、早速ごろんと横になった。
 さわさわと風が草を揺らす音がして、目を閉じると、すぐにでも眠りに落ちてしまいそうになる。こんなに穏やかな時間は久しぶりだ。
 そう思いながら、ゆっくりと目を閉じかけた時だった。
 視界の片隅に、何か白い物が入った。
「ん?」
 手を伸ばせば届くところに、何かが落ちている。ドラコは興味を引かれて手を伸ばし、それを取った。
「何だこれ、ハンカ……、……!?」
 ハンカチかと思った。
 思ったのだが。
「パ、パン……!!?」
 思わず、がばっと体を起こした。
 下着。
 下着である。
 ふんわりと薄く、複雑な形状のそれは、どこからどう見ても下着だった。
 しかも白ではなく、うすいピンク色
 ドラコは思わず自分がやって来た方に目をやり、それからごくり、と息を飲み込む。
 そーっと手の中にある下着を見た。
 飾りの少ない、あっさりとした薄いビキニ型の下着。
 くどいようであるが、それはハンカチではなく下着なのである。
「い、一体……?」
 どこの誰の、なぜこんな所に、一体どうして。
 疑問符が次から次へと降ってわくが、ドラコには答えの出しようもない。
 ドラコが頭の中でごちゃごちゃ考えていると。

「もう、何だったのよさっきの風!」
「突然だったからびっくりして手を放しちゃったのよ」
「ハーマイオニーったらあんな所に干してたりするから」
「だって、物が物でしょう?普通の洗濯物と一緒になんて、出しにくいじゃない」
「それはそうだけどォ」
「ねえハーマイオニー、本当にこっちに飛んできてると思う?間違ってたら骨折り損よ?」
「たぶん大丈夫。風の方向からしてこっちしかないと思うし」
 きゃあきゃあと可愛らしい声でおしゃべりしながら、女の子集団が現れたのだ。
 しかもその中には、見知った名前があるではないか。これにはドラコも大いに慌てた。
 慌てて手の中の下着をローブのポケットに突っ込むと(!)、何とか平然とした面もちを作り、すっくと立ち上がった。
 そしていつものように、やって来た少女達と対峙する。
 彼女は、ドラコの顔を見るとさっと笑顔を潜ませた。彼女の両脇に立つ友人達も皆、ドラコのことを無言で見つめる。
「やあグレンジャー、雀の集団を引き連れて、何かお探しかい?いつも一緒のポッター達ではなく、その他大勢を連れてさ」
「何でもないわ」
 切って捨てるような素早さで、彼女、ハーマイオニー・グレンジャーは切り返した。
 雀の集団、その他大勢と言われた女の子達が、途端に表情を険しくする。
「探してるわ。探していたらどうなの?」
 ハーマイオニーの背に隠れながらも、そう言ったのは確かパーバティとかいう少女。彼女がそう言った途端に、ハーマイオニーが「ちょっと!」といさめた。わずかに頬が赤くなっている。
 ドラコはどきどき言い始めた心臓をなだめながら、「へえ」と笑ってみせた。
「天下のガリ勉女は、一体何をお探しだい?」
 自分のポケットに入っている「例の物」の持ち主が誰なのか確かめようと、カマを掛ける。
 あなたには関係のない物よ、とハーマイオニーが口を開きかけた途端、またしてもパーバティがうっかり爆弾発言を投下し始める。
「ハーマイオニーのお気に入りのパン……」
 すんでの所で、ハーマイオニーが彼女の口をばふっ!と手で押さえた。
 ハーマイオニーの顔が真っ赤になっている。耳まで赤い。
 ドラコはくらりとめまいに襲われ、うっかりその場で倒れかけた。だがそれを必死にこらえ、いつも通りに見えるように必死で筋肉を酷使しながら、いつもの皮肉を彼女にぶつける。
「まったくよくも僕の睡眠の邪魔をしてくれたな。これだから下賤な奴らは困る。君たちのかしましい叫び声ときたら、まだマーピープルの方がましってもんだね」
 ハーマイオニーはキッとドラコを睨み付け、後ろの友人達に向かって、
「こんな人無視よ、無視。かまうだけ時間の無駄だわ」
「ふん」
 鼻でせせら笑って、ドラコはその場から立ち去る。ハーマイオニー達がこっちを睨んでいる視線を感じながら、彼女たちから見えなくなる曲がり角を曲がって、ドラコは駆け出した。
 心臓が過去最高のスピードで脈打っていた。

 人気のない場所までやって来て、ようやく彼は立ち止まる。
 辺りに人がいないことを何度も何度も、くどいくらい確認した後で、そーっとローブのポケットを探った。そこにはやはり、例のピンクの下着が入っていた。
「ぐっ、グレンジャーの……?」
 一気に、ドラコは耳まで赤くなる。
 そして壁と向かい合うような形で座ると、草の上にそれを置き、まじまじと観察した。
 ……自分に突っ込みたくはならないかドラコ。
(てっきりクマさんウサギさんのレベルかと思ってたのに……意外にこういう色っぽいの付けてるのか……。どうせあいつがスカート短くしたって磯野ワ○メだ、とか思ってたんだけどな……。う、上とお揃いだったりとか、するのかな……)
 物語の次元まで超えて、隅から隅まで余計なお世話である。
 そしてふと、腰の辺りに華麗な筆記体で「H」という文字が刺繍されているのを発見する。しかも目立たないように、同じ色合いの糸で。
(い、意外に器用なんだな……。Hってことは、やっぱりこれはグレンジャーの……。今日洗濯に出していた物だってことは、昨日身につけていたってことだよな……。昨日……、そういえば昨日もあいつらと衝突したっけな。そ、その時に付けていた下着……?)
 どんどん変態方向に思考が向いてるぞドラコ!
 腐っても一応美形キャラだろ!
 戻ってこいドラコ!!
 筆者、読者諸氏の必死の祈りが通じたのか、ふいに、ドラコは真顔に戻った。はたと困ったことに思い至ったのである。
 持ち主は突き止めた。だが、それでどうするというのだろう。
 まさか手渡すつもりか、ドラコ。当のハーマイオニーが知ったら、泣くことは請け合いだろう。
 今度はこの間のようなビンタだけではすまされないかもしれない。往復ビンタ、いやもしかしたらフライングニールキックあたりが飛んでくるのか、後ろ上段三日月蹴りという可能性もある。
「マルフォイ!!」
 突然大声で名前を呼ばれて、ドラコはびっくうう!と飛び上がった。
 何しろその大声の主が、今彼の手の中にある下着の持ち主、ハーマイオニー・グレンジャーに他ならなかったからだ。おまけに彼女は、自分めがけて猪突猛進よろしく突撃してきてるのだから。
 立ち上がって振り返ると同時に、例の下着を再びポケットにねじ込むことを忘れない。
「ななな何だグレンジャー、いいい加減僕の睡眠の邪魔をするのは……」
「あなた、さっきの場所で何か拾わなかったでしょうね!?」
 遮って叫ばれた言葉に、ドラコはびくうと内心飛び上がる。
 ――拾いましたよええ拾いましたとも君のセクシーな薄いピンクの下着をね!
「なな何のことだか分からないな」
「本当に本当でしょうね!?」
 ドラコの腕をがしっと掴んで、食い入るようにじっと目を見つめてくるハーマイオニー。
 君は何て男前なんだ。
 ドラコは心の中で、ある意味冷静に感心していた。
 風で飛ばされた下着を拾ったかもしれないのが、普段目の敵にしている僕で、それだけでも大変な屈辱だろうに、更にそれを返せと迫るなんて。普通の女の子には到底できないことだろう。
 妙に感心してしまったドラコは、賭に出た。
「そうだな、僕が拾ったよ」
「やっぱり!返しなさいよ!あなたには必要ない物でしょ!?」
「さあ、それはどうかな」
「!?」
 ドラコはにやりと笑った。
 それはどうかなって、おいドラコ、一体何を考えている。まさか、今夜それで……。
「君が探している物が何なのか、ちゃんと言えたら返してやるよ」
 ハーマイオニーが息をのみ、もの凄い目でドラコを睨んだ。
「あなたって、最低ね!!」
「聞き飽きたセリフだな」
 余裕たっぷりな風を装い、ドラコはハーマイオニーを見据えた。
 内心は、どっきどきなのである。
「さあ、どうする? 返して欲しいんだろう? 君の大事な物なんだろ?」
 くっとハーマイオニーが唇を噛んだ。
 熟れたさくらんぼみたいだ、とぼんやりとドラコは思う。かぶりついて歯をたてたら、一体どんな味がするんだろう。
「わ、私の探してるのは……」
「……探してるのは?」
「私の、パ……、パン……」
「ハーマイオニー!!!」
 彼女の後方から、先程一緒にいたパーバティたちが嬉々とした顔で走ってくる。














































「あった!あったわよ!あんたのパンダちゃん!!」



ぱんだちゃん!!?
 思わず素っ頓狂な声を出して聞き返してしまうドラコ。
 ハーマイオニーはそんなドラコのことなど完全無視、というか存在すら忘れてしまったかのように少女達に駆け寄り、「はい!」と差し出されたぬいぐるみをぎゅう、と抱きしめた。
「ああ!良かった!!どこに行っちゃったのかと思ったわ!」
「枝に引っかかってたのを、クィディッチの練習帰りのハリー達が見つけてくれてね。取ってくれたのよ」
「そうだったの!後でお礼を言わなきゃね!」
 まふっ、とふわふわのぬいぐるみに顔を埋めて、ハーマイオニーはとろけた声を出す。
「お、おい、グレンジャー」
 喉から絞り出すような声だった。
「お前の探していた物って……ぬ、ぬいぐるみ???」
「何よ、悪い?」
 ムキになったように、ハーマイオニーはドラコを睨んだ。ちょっと顔が赤くなっている。
「笑いたければ笑えばいいでしょ? 未だにぬいぐるみを抱いて寝てるって!」
 ドラコは、その場に崩れ落ちたい衝動を何とかこらえた。
「ああ、そうですか、ぱんだちゃん……そうですか…………」
 消え入りそうな声で呟くドラコには目もくれず、ハーマイオニーはパーバティたちとキャッキャッと可愛く笑いさざめきながら去っていった。
(なんだくそっ!!僕は絶対グレンジャーのだと!!それに何だよあの女!あの時あの女がはっきり最後まで言ってれば、こんなことには!!)
 拾ってポケットにねじ込んだお前が言うなと言いたい。
(じゃあ、これは一体誰の……?)
 ポケットから取り出した、手の中の可憐な下着を見て首を傾げる。

 と、その時。






















「おーいハリー、もっとよく探せよー」
「うるさいなあロン、探してるよ!」
「確かにこっちなんだよねえ?」
「ああ、風に舞い上げられて飛んでいったんだけど、たぶんこの辺に」
 わいわいがやがや、と盛大な声を上げてやって来たのは、ドラコが目の敵にしているにっくき敵、ハリー・ポッターとその友人達だった。
「本当にさ、洗濯物の管理くらいちゃんとしといて欲しいよな」
 赤毛のロンがぼやく。
「しょうがないだろ? クィディッチの練習時間がギリギリで、すごく慌ててたんだからさー」
 口をとがらせて反論しているのはハリー。するとシェーマスが、
「でもハリーのだけ飛ばされてくなんて因果だよなー。まあ自業自得?」
「しかもパンツだなんてな!!」
 げらげらとハリー以外の全員が笑う。



 ばたーん!!!



 突然響いた音に、何事かと目を向けたグリフィンドール生たちが見たのは、ぶっ倒れているプラチナブロンドの髪の少年だった。
「うわっ!マルフォイ!?」
「何やってんだこいつ!!?」
「何か悪いもんでも食ったのか!?」
「白目剥いてるよ!!早く医務室に運んであげようよ!!」
 どこまでも人のいいネビルにため息を付きながらも、彼らは「やれやれ」といった面もちで、再起不能に陥ったドラコ・マルフォイを担ぎ上げた。
 そしてまた、そのネビルが「例の物」がそこにぽつんと落ちているのを発見する。
「あれ? ハリー、もしかしてこれ?」
「あっ!そうそう、これだよ!」
 ハリーがちょっと顔を赤らめて、ネビルからそれを受け取る。
「おいハリー、白って、ピンクじゃんか!」
 ディーン・トーマスにからかわれ、みんなが「女みてえ!」とはやし立てるのを聞いて、ハリーはムッとした顔をした。
「だって!しょうがないだろ!?クィディッチのユニフォームと一緒に洗濯に出したら、色が移っちゃったんだから!」

 確かに。
 確かに、彼らグリフィンドールのシンボルカラーは赤と金。もちろんユニフォームだって赤が基調。
 一緒に洗濯したら、全てが怪しいピンクに染まるでしょうよ。

 だが。
 だがな、ハリー。
 ここに、その「しょうがない」の結果に、不覚にも心躍らせ、身も心も躍らされてしまった哀れな貴公子がいることに、どうかどうか気付かないままでいてやってくれ。


すいませんでした。好きな子はいじくり倒せ!を素でいきました。
野良犬に噛まれたと思って忘れてくれドラコ少年!!!

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