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Novel
REBORN! > Crocevia

 部屋は、ホテル9階の一番奥だった。
 ふかふかの絨毯が敷かれた廊下を歩きながら、美並は前を歩く雲雀の背中を見つめる。
 4年前まで見てきたそれと比べると、背丈も肩幅も、ずいぶんと男らしくなった。自分と同じく、彼もまた大人になったのだと、そう思い知らされた。
 出会った頃――、中学生の頃に比べると、大きく開いた身長差がそれを物語っている。
 そうして、否が応でも思い知らされるのだ。
 今こうして自分が、こんな深夜に、彼の後について彼の部屋へ行くということが何を意味するのか。先程バーで、微かに見せた彼の気持ちと、今は自分の左手に鈍く光る雲のボンゴレリング。酔いに任せた一時のものだとは思いたくなかった。
 ふと、前を行く雲雀が立ち止まって、振り返る。
「……先に入りなよ」
 カードキーを差し込んで、彼は扉を開いた。
 まっすぐに目を見ることが出来なくて、美並は視線をそらしたまま一瞬だけ戸惑ってみせた。
「……さ、さっきはあんまり飲めなかったし、部屋でなら、潰れたって平気だしね」
 精一杯茶化すフリをして、意を決して中に入る。
 ほとんど使われた形跡のない、真っ新な匂いがする部屋だった。灯りも、日本のホテルとは違って薄明かりしか灯らない。ぼんやりとしたオレンジ色の光が、二つ三つ灯るだけだ。
 正面の窓にかかるカーテンの隙間から、イタリアの街の灯りが見えた。
「結構キレイな部……屋……」
 言い終わらないうちに、後ろから抱きすくめられた。
 まだ、ドアから数歩の位置。抱きしめられたその一瞬の後に、背後で扉が閉まる。廊下の灯りが切れて、薄暗い部屋の中、お互いの顔さえ朧にしか判別できない。
 美並は動けなかった。
 唐突に近づいた彼の匂い。中学の頃から良く知っていたはずのそれは、酒の匂いと混じり合って美並を混乱させる。あの頃は強制的に巻き込まれる戦闘の中、うんざりした感情の中でしか感じなかったそれが、今は別の意味を持って美並を包みこんでいる。
 開いた体格差のせいで、今や美並は雲雀の腕の中にすっぽり収まってしまっていた。
 沈黙だけが落ちて、美並を抱きしめた腕が、少しずつ、その力を強めていくのが分かった。
「……く……苦しいわよ、バカ」
 精一杯絞り出した声も、迫力などないに等しく。震えが伴って、甘く囁くようにすら聞こえる。
「―― 美並」
 耳元に直接囁かれて、びくんと美並の身体が跳ねた。
「―― 美並」
 苦しいような切ないような雲雀の声が、鼓膜から直接体中に痺れをもたらしてくる。自分を強く抱きしめる雲雀の腕に、美並はそっと手を添えた。
 そうして、振り向いて彼を見上げる。
 目を合わせた瞬間に、全てが弾けた。
 熱い口付けが、降りてきた。




「ツナ君ツナ君」
 ぐすぐす、と鼻を鳴らして、九代目はソファの背もたれにしなだれかかった。
「本当にこれで良かったのかね? 私はもう、ミナミちゃんに嫌われたんじゃないかと心配で心配で」
 デスクに向かう綱吉は、そんな先代ボスを見つめてため息をつく。
「……こうでもしないと、あの二人は一生すれ違ったままなんですよ」
 でもちょっと荒療治すぎたかな、と綱吉は、大きな目をぱちぱちさせる。
「姉ちゃんがずっとお見合いの話蹴り続けてた理由、それってやっぱり、あの頃からずっとあの人のことが胸の中にあったからじゃないかって」
「だけどねえツナ君?」
 うなだれたまま、頭だけを綱吉に向けて、九代目は続ける。
「何でそこで私の登場? 私これじゃあ汚れ役と違うかい? ミナミちゃんに嫌われたらどうするの? 老後の世話焼いてもらえなくなったらどうしてくれるのちょっとツナ君?」
「姉ちゃんには、幸せになって欲しいし」
「ちょっとツナ君、無視かい?」
 とても巨大ファミリーの先代ボスとは思えない仕草で、九代目は「ハウハウ」と涙に暮れる。
「仕方ないんですよ……」
 はーっと大きくため息をついて、綱吉は頬杖を突いた。
「だってオレが仕組んだんじゃバレバレだし。って言うかオレが見合いしてくれなんて姉ちゃんに言ったところで一蹴されるだけだし。しつこくしようものなら、一体どんな制裁が待っているか……」
 考えるだけでもオソロシイ……!
 ひいっと身震いして、綱吉は両肩を抱いた。ボスを襲名しても、未だに姉に頭の上がらない綱吉である。
 そこへ、書類を手にした獄寺が入ってきた。獄寺を見た九代目が、キッと顔を上げて綱吉を睨む。
「元はと言えばツナ君、君が男同士になんて走るから私がこんなツライ思いをすることになったんじゃないのかね!?」
「ええ?何ですかちょっと!全部オレのせい!?」
「ああそうだとも!君が彼とチョメチョメなことになるから、ミナミちゃんに後継者問題を託さないといけなくなったんじゃないか!」
「チョメチョメとか古いよ!」
「古くて結構!君が男同士に走ったせいで、爺ちゃん生きてる間にツナ君の子供を抱っこできなくなったんだからね!ミナミちゃんに賭けるしかないじゃないかね!でも可愛い可愛いミナミちゃんがあんなことやそんなことやあまつさえこんなことまでされちゃうかと思うと爺ちゃん生きてる心地がしないんだよツナ君!ホラ見なさい君のせいだ!」
「何それ八つ当たりッスか!」
「ああそうだよ!八つ当たりだよ!もうこうなったら八つ当たりするしかないのよ爺ちゃんは!」
「大人げなさすぎだよ!!」
「何とでも言いなさい!君だってミナミちゃんに、ハヤト君と付き合ってること隠してるじゃないかね!ミナミちゃんは君がいまだにキョウコちゃんに片思いしてると思ってるんだよ!姉に対する裏切りじゃないのかね!」
 言われて、途端に綱吉は「うぐっ」と言葉に詰まる。
「そ、それはだって……、姉ちゃんに後継者とかで重荷に思って欲しくなかったから……」
「だが実際君はそこらへん含めても、今回の件でミナミちゃんを裏切ったわけだ。回し蹴りの一発や二発飛んできたっておかしくないだろうねえ」
「だ、大体早く子供を作れとかわめいたの九代目じゃないですか!全部オレのせいにする方がおかしいでしょ!」
「いたいけなジジイの老後の楽しみを奪おうというのかねツナ君は!!」
「どこがいたいけだー!!」
 ギャーギャーと半泣きでわけの分からない言い合いを続ける先代と当代のボスに、「あー、あのー」と、非常に言いにくそうに獄寺が口を挟んだ。
「先程美並さんのお供をしていた者から連絡がありまして。……どうやら、作戦は成功したようだと」
「え」
 ぴたり、と動きを止めて、二人は獄寺に向き直った。
「美並さんは雲雀とバーで飲んだ後、そのまま二人でホテルの部屋に入っていったと。供の者にも、帰宅命令が出されたとのことですし」
 綱吉は九代目と顔を見合わせると、ホーッと息をついた。
「あー……、なるようになった、かな?」
「まあ……、俺としては女神を汚されたような気分ではありますけどね」
 憮然とした顔で、獄寺が答える。その様子にちょっとムッときた綱吉、からかってやりたくなって、意地悪く訊いてやる。
「フーン、やっぱりまだ姉ちゃんのこと好きなんじゃないの?」
「な……?」
「獄寺君最初からこの作戦、反対気味だったもんね」
「おっ、俺はただ!雲雀のヤローに美並さんを奪われちまうっていうのがシャクなだけで!お、俺が好きなのは……っ!」
「うん、知ってる」
 にやり、と笑って、綱吉は大きな瞳で獄寺に笑いかけた。
「冗談だよ。獄寺君の気持ちは、中学の頃にちゃんと聞いてるし、変わってないのも知ってるよ」
 はめられた、という顔で赤面すると、獄寺は「悪い冗談です」と唇を引き結んだ。
「ちょっとツナ君ー!!!」
 甘い雰囲気を一蹴して、九代目が叫んだ。
「この事態に何イチャついてるのこのバカップルは!ミナミちゃんが!ミナミちゃんが野生の狼に喰われてしまうじゃないかね!」
「いやいや、だから九代目」
「ミナミちゃんの子供は抱っこしたいが!ミナミちゃんの純潔が汚されてしまうじゃないかね!あの雲の彼はミナミちゃんと朝までしっぽりしちゃうんじゃないのかね!中学の頃を思い出して、今度は大人の方法で戦闘開始しちゃうんじゃないのかね!きー!許せーん!!」
 叫ぶ九代目を呆れたように見つめる綱吉、ため息混じりに呟いた。
「あんたどっちなんですか。早く子供作れって言ったり、汚されたくないって言ったり。矛盾するにも程がありますよ」
「爺ちゃんは複雑なんです!」
 と、その時。
 ガチャリと扉が開いて、山本が「おーいツナー」とニヤニヤしながら入室してきた。
「おい、今十代目は取り込み中だ」
 獄寺がノックもしない山本をたしなめるが、山本はお構いなしにデスクに近づくと、
「今すんげー事態になってんだってな!スクアーロがザンザスに非常招集くらいやがってよー!」
「非常招集……?」
 ぎくっと身体を強ばらせる綱吉と九代目。山本は空気も読まずにニカッと笑って続けた。
「これ、マーモンの念写で撮ったホテル内の写真。マジですげーぞ」
 差し出された数枚の紙には、ベッド上の姉と雲雀の姿が。
「GPSからちょい能力磨いたんだってよ。まあ解像度ちょっと荒いのが残念だけどよー。姉さん表情とかマジエロイのなー。これ動画だったら言うことねえのによー」
「能力使ってのぞきしてんじゃねえよ!!ってかこれ何で値札付いてんだよ!しっかりマーモンに売りつけられてんじゃん山本!」
「うわスゲ……、対面座位からバック……、わ、これなんか無修正ッスよ十代目。やべー」
「獄寺君まで何見てんの!!姉ちゃんや雲雀さんに知れたら確実に消されるって!!」
 ムンクの叫びの表情で固まる九代目と二人で紙を覗き込みながら、獄寺は「あ」と気付いた。
「おい山本、さっき非常招集って言ったよな」
「ん?ああ」
「それってアレか? ヴァリアーの連中が……」
「ああ」
 ニッカと笑って、山本は爆弾発言を投下した。
「マーモンのこれ見た直後に、ザンザスがブチ切れたみてーでよ。たぶん今頃、ホテル周辺は完全封鎖の上に暗殺部隊が突入準備中ってとこだろーな」
 一同はサアッと青くなった。
「そ、それを早く言え―――!!!」


「……で、どうなの?外の様子は」
 ベッドに座ってブラのホックをはめながら、美並がイラついた様子で尋ねる。
「さあね。連中のことだ、群れてやってくるんだろ」
 カーテンの側に立ち、投げやりな口調で雲雀が返す。彼は既にネクタイを締め、その手には愛用のトンファーを握りしめている。
「これだからマフィアなんて大嫌いよ」
「美並」
「何よ」
「明日の夜も会えるかい?」
 美並はちょっと面食らって、髪を整えていた手を止める。
「何?ひょっとして、た、足りないって意味?」
「当たり前だろ」
 憮然として、彼は忌々しげに続けた。
「7年も我慢してたんだ。まだまだ全然足りな……」
「バカ!!!!」
 真っ赤になって美並が叫ぶ。
「よくそんな恥ずかしいこと平然と言えるわね!あんたそんなキャラだっけ!?」
「僕は常に本能に忠実に生きてるだけだよ」
「性欲に忠実なだけでしょうが!このエロ魔人!」
「そうさせてるのは君だろ」
「私のせいにするか!?」
「しししし、イチャついてるとこ悪いけどお二人さん」
 突如窓の外からかけられた声に、ハッと身構えて振り返ると、そこには屋上からロープを伝ってきたらしいベルフェゴール。彼はニカニカ笑いながら、興味津々の顔で二人を見ると、
「カネくれたら見逃してあげてもいいよ。ぶっちゃけ王子、ミナミは好きだけど妨害するほどでもないんだよね。まあボス命令だから仕方ないけど」
 ししし、と王冠の下で笑うベル。
「どうするー?王子一番乗りしちゃったけど、スクアーロやボスももうじき到着しちゃうよ?」
 しばし沈黙した後で、先に美並が口を開いた。
「ねえ恭弥」
「何だい」
「さっきの返事だけど」
「うん」
「ここ切り抜けられたら前向きに考えてあげてもいいわよ」
「……ワオ」
 ペロ、と唇を舐めて、雲雀はトンファーを握りしめた。同時にベルがヒューッと口笛を吹く。
「女王様のお許しが出ちゃったよ!じゃあ頑張って切り抜けてね二人とも」
 言い終わるより早く、窓の外からカッと眩しい光線とヘリの爆音。そして、廊下側からも銃を構える金属音と複数の足音が聞こえる。
 美並は深くため息をついた。
「あー……、ホテル側に弁償金いくらかかるのかしら……。また電卓とお友達……?」
「そういうのは君の弟に全部叩き付ければいいんだよ」
「ほんっと、何考えてんのかしらザンザスの奴」
「……君のせいだろ」
「何でよ!」
 君がモテる上に超絶ニブいからいけないんだ、と咽から出かけた言葉を呑み込んで、
「とりあえず、会ったら咬み殺す」
「私もしこたま殴りたい気分だわ」
「共同戦線ってことだね」
「そう言えば初めてね」
「足引っ張らないでよ」
「誰に言ってんの」
 フッと笑い合った後、二人は同時にドアに向かって突進した。

 この日のホテルの被害総額は、1億2千万円にも上ったという。


基本的に身体の相性は最高にいい二人だと思います。そして共同戦線張ると最強コンビ。
ちなみにミナミの初めては大人リボーンです。痛くないようにちゃんとしてくれる。
雲雀はそういう方面ではめっちゃガツガツいくタイプだと思うので、慣れるまでミナミは大変(笑)

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