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Novel
REBORN! > 左手に君のしるし

 その瞬間にいつも、僕らの間にある種族の違いとやらを感じずにはいられなくなる。だから、僕らは戸惑ってばかりになるんだろう。
 それで果たして上手くいくのかどうかなんて、そんなのやってみなけりゃ分からない。


 その日も獄寺は、いつものスガスガシイ笑顔を纏ってツナのもとへやって来た。
「おはようございます十代目っ!」
 ニカッと笑ったその頬に、大きな絆創膏が一つ。
「どっ、どうしたの獄寺君それ!けっ怪我したの!?」
「え、あ、これッスか?」
 こし、と手の甲で絆創膏の上から頬を擦って、獄寺は困ったように笑う。
「実は昨日、十代目と別れた後にいけ好かねえ奴らにインネンつけられまして」
 不覚にも一発喰らっちまって。
 そう言って、笑いながら煙草を噛んだ。
「……っ」
 途端に悲愴な顔をして、ツナは痛々しそうに獄寺を見つめる。その顔を見た獄寺は、また困ったように笑った。
 自分自身も痛い思いや辛い思いをするのが嫌いなせいか、他人の痛みにもひどく敏感な、心優しきボンゴレ十代目。だから彼はいつでも、獄寺の体に傷痕を見つけると顔を歪めるのだ。
「この間の傷、やっと薄くなったと思ってたのに……」
 眉を下げ、大きな目を瞬かせて、ツナはむき出しの獄寺の腕に目をやった。
 ようやく包帯が取れたばかりの腕には、まだ生々しい傷痕が残っている。火傷と切り傷と擦り傷と、それから打撲痕。
「はは……、あの、そんな顔しなくても大丈夫ッスよ、これくらい」
 昨日の、どちらかと言えば獄寺自身も「楽しんだ」乱闘の、明らかな痕跡。ツナにはそれが、自分のように転んだとか階段から落ちたとか、そういった事故によるものではなく、暴力とそれに付随する乱闘によって付けられた傷だと判るのだ。
 だからこそ、心底心配そうな顔で獄寺の顔を覗き込む。
「でも、痛いだろ?」
 実を言うと、獄寺はこういうツナの顔を見るのが苦手だった。
 ツナが自分を心配してくれるのはとても嬉しいし、心配するがゆえに、こういう悲痛な顔をするのは判る。
 判っているが、判らない。
 なぜそこまで真剣に、他人の体の、薄くなった傷のことまでを痛々しく思えるのか。
 傷痕などあって当然。幼少期を過ごした城を飛び出してからこの方、ずっとそういう環境で育ってきたものだから。
 現に今の腕の傷だって、頬の真新しい傷だって、微かな疼きは感じるものの、痛みなどほとんど感じないのだ。体が痛みに慣れすぎてしまっている。
「別に、痛くないッス。こんなもんに比べたら、六道骸の時や、雲雀にトンファーでボコられた時の方がヤバかったですから」
「そういう問題じゃないよ」
 確かにアレらはシャレにならなかったけれど。こっそりそう思ってみるけれど、ツナからすれば、相手が雲雀だろうが骸だろうが、その辺のチンピラだろうが、そんなことは関係ない。
「獄寺君の場合は、怪我する頻度が高すぎるんだよ!」
 すると獄寺は、へへ、と怪我をしていない方の頬を掻いた。
「こりゃあむしろ、十代目にご心配をおかけしてしまう方が痛いかもしれねえッスね」
「え?」
 できればツナには、心配するのではなく笑っていてほしいのだ。たとえどんな敵が現れようとも、自分が片っ端から片づけてやる。だからツナには、安心して笑っていて欲しい。
 そう思うのに、笑顔とはほど遠い顔をさせてしまっている。
 それが現状なのだ。
「情けねえ……」
 ボソッと呟いた声は、ツナの耳には届かなかったらしい。
「獄寺君」
「は、はい?」
 顔を上げると、ペンケースから油性ペンを取りだしたツナが、キッとなった顔で自分を見上げていた。死ぬ気モード以外でこういう顔をしたツナを、獄寺ですら滅多に見たことがない。だからこそ、獄寺は何をされるのかと腰が引けてしまった。
「左手出して」
「へ? ひ、左手?」
「いいから出して」
「は、はあ……」
 おずおずと左手を差し出すと、ツナはぐいっとそれを掴み、獄寺の掌に油性ペンをぎゅぎゅっと押しつけてくる。
「ちょ、十代目!?」
 驚く獄寺の腕を脇に挟んで抑えつけ、ツナはぐいぐいとペンを走らせた。
 そうして、獄寺の掌には……。
「次に喧嘩しそうになったらそれ見て」
「…………」

『ケガしたらゆびわぼっしゅう』

 ひらがなばっかりですね、などとはこの際突っ込まないことにして、獄寺はツナを見た。
「そのうち獄寺君のしてるの、全部なくなっちゃうからな。イヤならケガしないように心がけるんだよ」
「……あの」
 アクセサリーが欲しいなら言ってくれればいくらでも差し上げるのに。
 そう言おうとしたが、ツナがそんなものを欲しがっているわけではないのだと気付いて、獄寺は口をつぐんだ。
「……何笑ってんだよ!?」
「あ、いえ、すいません十代目」
 思わずこぼれてしまった笑みを見とがめられて、獄寺は左手を一度、ぎゅっと握った。
 開いた掌を見つめて、また自然、笑みがこぼれる。
 何よりも、自分の身を心配してくれるツナの気持が、くすぐったいような落ち着かないような、どうにも慣れない感じがして、けれどとても嬉しいのだ。
 実際、嬉しくて仕方ない。
 へたくそな字で書かれた文字を、もう一度見つめる。
 この左手のしるしが、嬉しくて仕方ない。
「獄寺君! ほら行くよ!」
 怒ったように、ツナが先に歩き出した。
「おめーらいい加減にしとかねえと、遅刻どころか頭ブチ抜くぞ」
 いつの間にか塀の上で傍観していたらしいリボーンが、小さな手に物騒な銃を光らせている。
「うっわヤベ! もうこんな時間だよ!」
「はっ、走りましょう十代目ッ! 確か十代目、次の遅刻でヤバイとか何とか」
「誰のせいだよ!?」
「え、お、俺ッスか!?」
 漫才のようなやりとりを繰り広げながら駆け出していく、若きボンゴレファミリーを眺めて、体だけは更に若いリボーンがため息をついた。

 育った環境が違うから、彼らはまるで異種族ででもあるかのように、価値観が違うことがある。だから、実際問題戸惑ってばかりになるのだろう。
 それで上手くやれるかどうかは、さて、試してみなければ分からない。

「ったくガキ共が。朝っぱらからイチャついてんじゃねーぞ」
 今のところ、どうやらそんな戸惑いですらお互いに、まんざらでもないらしい。
「生意気なんだよ」
 帰ってきたらとりあえずシメとくか。
 愛らしい外見をした物騒な赤ん坊は、黒光りする愛銃を片手にニヤリと笑った。


十代目好きすぎな獄寺と、心配性の十代目。雰囲気でデキてると思わせちゃうんだと思います、こいつらは。

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