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Novel
REBORN! > 何でもない日常

「で、どうなのよ実際」
 放課後なのを良いことに、保健室でエスプレッソなど煎れながら、雇われ校医のシャマルは尋ねた。
「ボンゴレボーズとしては、姉にどういう立場でいて欲しいわけ」
「どういう立場って……」
 すりむいた膝にガーゼを貼られたばかりの綱吉は、目をぱちぱちさせながら校医を見上げる。居残りでプリント作成を手伝わされていたのだが、階段から足を踏み外して盛大に転げ落ち、傷だらけになってしまったのだ。
 この胡散臭い校医には、先程からさんざん「男は看ねえ!」とキョヒられていたのだが、今度姉の美並とお茶させてやるという条件で治療を施して貰った。
 後で姉ちゃんにボッコボコにされるなあ。想像して綱吉は背筋を凍らせる。
「今までもこれからも、姉ちゃんはオレの姉ちゃんですよ。姉ちゃんはマフィアとは関係ないですし」
「そうでもねーぞ」
 いつの間に側にきたのか、黒い帽子の赤ん坊が反論した。
「リボーン!」
 綱吉はこの状況にいつまでも慣れず、ギョッとなって叫ぶ。
「何だよ、そうでもないって」
「ミナミはお前と同じくボンゴレ直系だからな。本来ならミナミも10代目ボスの候補だったんだぞ。実際お前かミナミのどちらかが、って話だったしな」
「はああ!?」
「それがお前に決まったのは、9代目がミナミを候補から外したからだ」
「はああああ!!?」
 思わず治療用の椅子からガタンと立ち上がって、すりむいた傷が痛んで「あだだだ」と呻く。そんな教え子には目もくれずに、リボーンはシャマルの煎れたエスプレッソを受け取って、何でもないように続けた。
「俺から言わせれば、お前よりミナミの方がボスに向いてる気がするんだがな」
「だっ、ダメだよ! オレもイヤだけど姉ちゃんがボスになるのもダメだ!」
「まあ9代目が選んだのはお前だからな。ミナミを鍛えるのはコトのついでってやつだ」
「姉ちゃんをこれ以上強くしてどうする気だよ!」
 綱吉は悲鳴のように叫んだ。
 姉の美並は、綱吉とは違って元気で強くて明るくて、勉強も運動も人一倍できて、学校でも人気がある。もちろん、教師生徒も先輩後輩も、老若男女も問わず。廊下ですれ違うみんなと笑顔で挨拶を交わす。そんな姉だ。
 弟の社交性と体力知力その他諸々を、全部奪って生まれてきたような姉。
 だが綱吉にとって、美並はある種の恐怖の対象でもあった。
 なぜなら美並はもともと身体能力が抜群に高く、そうでなくても気が強いのに、リボーンが現れてからこっち、めきめきと実力を付けている立派なボンゴレ戦闘要員候補者なのだ。何かあると「うじうじするな!」とボコボコにされている綱吉は、だから日常的に生傷の絶える時がない。
「姉ちゃんにはもっと京子ちゃんみたいに可愛くお淑やかな女の子に……」
「その京子がミナミに憧れてるって言ってもか?」
 ニヤリと笑って、リボーンが言う。綱吉は思わず固まった。
「あ、憧れてる? 京子ちゃんが姉ちゃんに?」
「そうだぞ。この間京子とハルが不良に絡まれたときも、ミナミがそいつらをボコボコにして助けてやったらしいしな」
「う、うそー! 何だよそれ! 姉ちゃん何やってんのー!?」
「ミナミと一緒にいたビアンキからの情報だからな。間違いねーぞ」
 あああああ、とうずくまってショックを受ける綱吉を見て、エスプレッソをすすっていたシャマルが笑い出した。
「いいじゃねえか。あんな強気で可愛い子が姉ちゃんだなんて、羨ましい限りだぜ?」
「冗談じゃないですよ! あんな暴走するティラノサウルスみたいなの! あのままじゃきっと嫁のもらい手がなくなりますよ!」
「そうかあ? とてもそうは見えねえけどなあ?」
 面白そうにニヤニヤ笑って、
「じゃあ俺がミナミちゃんを嫁に……」
「絶対に嫌です!!」
 綱吉が思わず全力で拒否した、その声が終わらないうちだった。

「ちょっと、いい加減にしなさいよ!!」
 グラウンドの方から、聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。
 夕焼けに染まるグラウンドに、3つの人影。
 こちらに背を向けて腰に手を当て、目の前の人物を仁王立ちで怒鳴りつけているツインテールの女子は、今話題に上っている綱吉の姉、沢田美並だ。
 そして彼女のやや前方にある見知った髪型は、自称綱吉の右腕、獄寺隼人。おそらく綱吉の下校をこっそり待っていたのだろう。そして美並の姿を見て飛び出してきたと見た。
 そして、二人が対峙する形になっているのは―――。

「ひっ、雲雀さん―――!?」
 綱吉が窓にバンッと手を突いて絶叫する。
「おーおー、喧嘩か?」
「雲雀さんなんて、姉ちゃん相手が悪すぎるよー!」
 相手はそこらへんのチンピラや不良とはわけが違うんだから!
 綱吉がアワワワワ、と狼狽える横で、リボーンとシャマルはニヤニヤ笑っているだけだ。

「てめえ!お姉様に一体何の用だ!」
 獄寺の怒鳴り声が聞こえる。
「悪いけど君には用はないんだ。死にたくなければどいててくれるかい」
 そうして、雲雀はトンファーをヒュンッと音を立てて握り直し、獄寺の後方の美並に目を向ける。
「沢田美並。今日こそ決着を付けようじゃないか」
 美並はふうとため息をついて、
「あんたもいい加減しつこいわね。今朝だって始業ギリギリまで戦ったでしょうが」
「まだ決着がついてないからね。放課後なら、時間制限はない」
「あっきれた……。あんたさ、私なんかにかまけてる間に、風紀委員の仕事がたまってるんじゃないの? 草壁君がやつれてたわよ」
「僕には関係ないことだよ」
「おいてめえ!雲雀ッ!」
 すっかり無視された獄寺が、肩を怒らせる。
「どういう了見でお姉様に楯突きやがる! お姉様はか弱い女性なんだぞ!」
「……沢田綱吉よりも強いよ」
「お姉様に手を出す奴は俺が許さねえ! お姉様下がっててください! こいつは俺が果たします!」
「ちょっと獄寺君!」
 早速ダイナマイトを取り出す獄寺に、美並が怒鳴る。こんなところで爆発でも起こされたらたまったものではない。
 雲雀は美並の前に立ちふさがる獄寺を、不機嫌極まりない表情で見据えると、トンファーをギュッと握った。
「お姉様お姉様って、目障りだよ君」
「ああ!?」
「まずは君から咬み殺す」
 途端に戦闘態勢に入る雲雀と獄寺。美並は肩を怒らせて怒鳴った。
「いい加減にしろ―――っっ!!」
 叫ぶなり持っていたカバンで獄寺をしこたま殴りつけ気絶させると、キッと雲雀に向き直り、
「ちょっと雲雀っ!! 周りの迷惑考えなさいよまったく!! 存在が近所迷惑なのよあんたはっ!!
「邪魔はいなくなったようだね。じゃあ早速、君を咬み殺すとしよう」
「話を聞け―――っっ!!」
 美並の鉄拳と雲雀のトンファーが、ついに衝突を開始した。

 その様子を保健室の窓から眺めている6つの目の感想は、まさに三者三様だ。
「良い感じだな」
 ニヤリと笑うのはリボーン。
「雲雀を相手に、ミナミの戦闘力とスピードがぐんぐん上がってるぞ。おまけに競争意識から、雲雀も力を付けてるみてーだしな」
「良い感じじゃねーよ!!」
 半泣きになりながら絶叫するのは綱吉。
「あああどうするんだよー! 姉ちゃんまでこんな尋常じゃない世界に引きずり込まれちゃって! 俺の平穏な日常を返せ――っ!」
「いやー、相変わらずカワイーなぁミナミちゃん!」
 ひゅーっと軽薄な口笛を吹いて喜んでいるのはシャマル。
「溢れんばかりの負けん気、生き生きした瞳、運動で桃色に色づいた肌! うーんセークシー!」
「ヒトの姉ちゃんに色目使ってんじゃねーよ!」
 思わず綱吉が絶叫する。
「おおおっ! ミナミちゃんのパンチラゲーット!」
「ん何ぃ!?」
「今日は水色かー。手帖につけとこ」
「やめーい!」
「短いスカートであんなに蹴り繰り出しちゃーパンチラってより、むしろモロだもんなー。案外ヒバリもソレ目当てだったりしてなー。あっはっはっはっ」
「まさか!!」
 雲雀さんに限って絶対にそれはない!
 綱吉は全力で首を振る。
 あんたと一緒にするな! あのヒトはただ単に強い相手と戦いたいだけなんだから!
「ねーちゃん逃げてー!!」
 綱吉の絶叫を横で聞きながら、リボーンは美並と雲雀の戦闘をじっくり観戦していた。
「雲雀に相手をさせることで、瞬発力と動体視力、おまけに攻撃をかわすスピードの訓練になるんだぞ。実際、ミナミの奴は雲雀の攻撃をほぼかする程度にしか受けてねえ。ミナミはまだまだ強くなるな」
 こういう奴こそ教え甲斐があるってもんだ。
 満足げに呟くリボーンを後目に、エスプレッソをすすりつつ、シャマルはでれっとした顔で声援を送る。
「うおーい、頑張れヒバリー!」
「えええ!? 何で雲雀さん応援してんのー!?」
「あいつがミナミちゃんにケガさせるのは確かに許せん! だが! 負ったケガを治療する! その役目は常にオレ! イッツ・ミー!!」
 ビシッと親指を立てて、シャマルはウインク。
「頑張れヒバリ! そしてオレの胸に飛び込んでおいでミナミちゅわーん!!」
「うおおい誰かこいつを殺ってくれえええ!!」

 保険室内での大騒ぎもどこ吹く風。問題の委員長と姉は、リボーンの見守る中壮絶なバトルを今日も日暮れまで繰り広げることになったのだった。


シャマルが書きたかっただけとも言います(笑)
姉ちゃんは雲雀に出会うまで喧嘩無敗、近所の不良どもも手を出せない人でした。
強い女の子を書くのは楽しいです。

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