Kirsikka*  ここは「水城りん」が自分の好きな作品への愛をダダ漏らせている個人サイトです。
 各作品の関係者各位とは全く関係ありません。

Novel
REBORN! > たまにはこっちから

 独特の喧噪に包まれながら、山本武は目の前でハンバーガーに食らいついている少女を眺めていた。名門女子中学校の制服に身を包んだ彼女は、だがそんなことは気にも留めずにいるかのように、口の周りをソースでべたべたにしている。
 山本は、半ばぽかーんとしながらそれを見ていた。
 まるで、頬袋に大急ぎでエサを詰め込んでいる小動物か何かでも見ているようだ。
 視線に気付いたのか、少女は大きな目を上げた。
「おうはひあひは?」
 どうかしました、と、彼女は言ったらしい。
「いや、別に」
 とだけ答えておいて、彼女が咀嚼してしまうのを待つ。ごくんと呑み込んでから、キョトキョトと店の入り口辺りを見回して、少女は目をぱちくりさせた。
「遅いですねーツナさんたち。私もうじきテリヤキセット食べ終わっちゃいますよー」
 そう、山本と少女は、近くの花火大会に赴くために、ツナたちとここで待ち合わせをしているのだ。

「でも山本さん良かったんですかー、ツナさんたちと一緒じゃなくて」
 少女、三浦ハルは、オレンジジュースを飲みながら尋ねた。
「オレは部活終わってからだから、ここの方が近かったんだよな」
 一人だけ学校の違うハルは、ツナたち他のメンバーと駅前のハンバーガーショップで待ち合わせることになっていたのだが、そこに山本も便乗して合流したのである。
 山本の場合、今日は近くの学校と合同練習があったため、ツナの家に行くよりも駅前の方が近かった。足元に置かれた部活用具の入った大きなスポーツバッグと、そこから飛び出しているバットの柄が、それを物語っている。
「……それにしても」
 ハルが、じっと山本を見た。
「さすが野球部、日焼けしまくりですねー」
「そっか?」
 何となく笑えて、表情が崩れる。同じ部活の中では、みんな同じように真っ黒だから、日焼けしているなんて今更のようなものだ。
「女子は日焼けとか嫌がるもんなー」
「そうですよ、毎日日焼け止めべたべた塗りまくりです」
 真剣な目で返されて、山本は思わず吹き出した。

 親友のツナのことが好きだという、この少女。一生懸命なのにどこか空回りする性格で、猫のような目と口が愛らしい、憎めない少女である。
 普通にしてニコニコ笑っていれば、十分可愛いと思うんだがなぁ、などと、山本は思う。
 いつも一生懸命ツナを想って、一生懸命アプローチして、突撃していくのに、あまり報われたためしがない。気の毒になるほど、ツナは彼女の友達である笹川京子の方に意識が向くのである。
 それを目の当たりにするたびに、もどかしいような、歯がゆいような、どこかもやもやするような気持ちが胸につかえるのを、山本は感じていたのだが。
「なあ」
 思わず、問う。
「ツナのどこがそんなに好きなんだ?」
「はひ?」
 唐突に訊かれて、ハルの華奢な肩がビクンと跳ねた。
「そっ、それはもちろん、優しくて頼れるところですよ!」
 慌てたように答えて、ハルは一つ大きく息をつく。
「ツナさんは優しくて、心がおっきいです」
「あー、なるほどなー」
 妙に納得したような気持ちになって、山本は椅子にもたれた。コーラを咽に流し込んで、
「何て言うか、うん、……いいやつなんだよなー」
 へら、と笑う山本を見て、ハルはクスッと笑った。だがすぐに目を伏せて、
「でも、ニブいですよね」
「あー……」
 これはフォローできない、とばかりに、苦笑いだけが浮かぶ。
「ツナさんて、ほんっと、ニブいですよね」
「……よく頑張るよなぁ、ハルは」
「山本さんんんん!」
 ふぐう!とすがるような目で見つめられて、一瞬山本は怯んだ。
「ハル頑張ってますよね!? ハルすごく頑張ってますよね!?」
「お、おお、すっげ頑張ってるんじゃねえか?」
「でーすーよーねー!?」
 まるで酔っぱらいのような態度である。
「ハル、そんなに魅力ないんですかねー……」
 テーブルにがっくりうなだれるハルを見て、思わずその頭をぐりぐりと撫でてしまう。
「お前、すっげーストレス溜めてたんだなァ」
「…………!」
 苦笑混じりに、山本はぐりぐりとハルの髪を撫で続ける。
「…………」
 大きくて無骨な手で撫でられるのが思いの外気持ちよくて、少しの間されるがままになっていたハルだったが、ハッと我に返ってその手を振り払った。
「何するんですかー!」
「え」
「かっ、髪がぐっちゃぐちゃですぅ!」
 これからツナさんたちに会うのに!と続けるハルを見て、思わず山本は吹き出した。
「ハル、お前、顔真っ赤」
「!!!!!!」
 途端に眉がつり上がる。
 からかい甲斐なら、ツナの自称右腕、獄寺といい勝負かもしれない。
「ひどいです山本さんー!」
 むきーっと叫ぶハルを、また可笑しげに山本は笑ってしまう。

「あー、いたいた、ハル! 山本!」
 聞き覚えのある声がして、華やかな紺色の浴衣に身を包んだツナの姉、美並と、同じく濃い紺色の浴衣姿の獄寺が二人に近づいてきた。美並を見たハルが、ものすごい勢いで反応して笑顔を向ける。
「お姉様!!」
 ツナを慕うハルは、その姉である美並に対しても同様で、「お姉様」と呼んでなついているのである。元来の動機は不純そのものだが、今では美並本人に「憧れ」を抱いてしまっているらしい。
「うわあ!二人とも浴衣ですかー!」
「へへー、せっかくの花火大会だもん、ちょっと張り切っちゃった」
「すげえお似合いですよお姉様」
 横からさりげなく、獄寺が滑り込む。割り込まれた形になったハルは、ムッと眉をつり上げて、
「獄寺さんはすごくチンピラっぽいですね」
「んだコラハルてめえ!!」
「はいはい、女の子相手にデカい声出さないの」
 べしっと額を小突かれて、獄寺は一瞬で黙らされてしまう。
 相手が不良だろうが美形だろうが、強面マフィアだろうが殺人兵器だろうが、まったく臆することなく手綱を握れてしまうこの沢田美並という少女に、山本は器の大きさを感じずにはいられない。
「ところで、ツナさんは?」
 ハルがキョロキョロしながら尋ねる。
「ああ、ツナは……」
 少し口ごもった美並の後から、獄寺が憮然として続けた。
「十代目は笹川ん家に迎えに行かれた」
「あ……」
 一瞬、ハルの表情が曇る。それを唯一、敏感に感じ取ることができなかった獄寺は、
「俺もお供しますって言ったのに……」
 とぶつぶつ呟く。
 姉ちゃんと先に行っといてよ、と笑顔で言われれば、自分はそうするしかない。もちろん浴衣姿が眩しい麗しの美並と、半ばデートのように歩けるのは実に喜ばしい出来事なのだが、その側に綱吉がいないことは獄寺にとって何より嘆かわしいことでもある。心中、ちょっと複雑な獄寺なのであった。
「そっ、それにしてもさ」
 空気を読めバカ!とばかりにしこたま下駄で獄寺の足を踏んづけておいて、美並は華麗に話題をそらした。
「さっきのあいつ、ほんっとに何だったのかしらね!」
「どうかしたんですか?」
 ハルが目をぱちぱちさせながら訊く。
「さっきそこで、ばったり雲雀に会ってね」
 浴衣姿で仲良くいちゃいちゃ歩いてい(るように見え)た美並と獄寺に、いきなり「群れるな!」とばかりにトンファーが飛んできたのだという。どうやら彼は、花火会場付近を見回っていたようだが。
 振り下ろされるトンファーを白羽取りで受け止めて猛抗議した浴衣姿の美並を、彼は物珍しげに「ふうん」と眺め回して、流れるような連続技で獄寺に矛先を変更したらしい。
 夕暮れの町中で、危うく大乱闘になるところだったとか。
「本当にはた迷惑な存在よね、雲雀の奴」
「あの野郎、お姉様にお怪我でもあったらどうしてくれんだっつの」
「でも途中から獄寺君ばっかり集中攻撃浴びてたわよね」
「お姉様がご無事で何よりです」
「あはは……」
 この二人、本当に分かっていない。
 そう苦笑するしかないハルである。美並もそうだが、獄寺もいけない。獄寺こそ、雲雀の攻撃の意味に気付いてもよさそうなものなのだが。……もしかして、わざと気付いていないふりをして美並の注意を逸らしているのだろうか。
「あー、何かさぁ、姉さんとツナって、やっぱ姉弟だよなー」
 呆れたように笑いながら、山本が呟いた。
「壊滅的にニブい」
 ハルも「うんうん」と同調する。
「えー、何よそれえ」
 素っ頓狂な声を出して美並が抗議した時、店の入り口が開いて、綱吉と京子、そして彼女の兄了平が入ってきた。三人とも浴衣姿である。
「あ、やっと来た」
 美並が腰に手を当て、「遅ーい」と文句を言っている。
「ご、ごめん姉ちゃん、ランボたちが付いてくるって聞かなくてさ」
「極限大騒ぎだったぞ」
「ビアンキさんとフウ太君が面倒見てくれることになったんで、お言葉に甘えて来ちゃいました」
 うふふ、と可愛く笑って、京子が制服姿のハルに気付く。
「あれ、ハルちゃん制服?」
「部活帰りなんですよー」
 困ったように笑うハルを見て、京子は残念そうに「そうだったんだ」と呟き、
「でも、花火には間に合って良かったね」
「はいー、ハル猛ダッシュしてきちゃいましたよー」
「今日の花火大会、屋台もいっぱい出るのに、今からそんなに食べてて大丈夫なの?」
 美並が、ハルのテーブルに置かれた空になったトレイを見て尋ねる。
「平気ですー!ハル、もう何を食べたいか決めてあるんで」
 目を輝かせて、「わたあめとー、リンゴ飴とー」などと指折り数えては、女同士きゃっきゃっと盛り上がっている。
「そろそろ会場に向かいますか?」
 獄寺が時計を見つつ綱吉に呼びかけ、
「そうだね、場所取りしとかないと、ちゃんと見られないからね」
「俺に任せていただければ、すぐにいい位置を」
「ダイナマイトはダメー!!」
 すぐに爆発物を取り出そうとする危険思考な獄寺を、必死にたしなめている綱吉。そんな親友を見遣りながら、山本は最後のコーラを飲み干した。
 ふと見ると、綱吉たち浴衣集団はお互いの浴衣が似合っている似合っていないとの話題で盛り上がっているようだ。ハルは制服だからか、いまいち話題に乗り切れていない。
「あーあ……」
 ぽつんと、ハルは呟いた。
「ハルも部活じゃなかったら、浴衣着てきたのにな」
 ツナさんに見せたくて新しい浴衣買って貰ったのに。そう、続ける。
 しょんぼりと肩を落とすハルを横目で見ていた山本だったが、どうにももやもやしたものが胸に沸き上がってくるのを感じてしまう。
 そして、ハルのポニーテールの頭をまたガシガシと撫でて、
「ま、次があんだろ。今日は制服組同士、仲良くやろうぜ」
「な……っ!」
 途端、ハルの眉がつり上がる。
「何言ってるんですかっ!そ、それに、また髪、ぐしゃぐしゃにしてくれやがりましたね……!」
「あんま変わってねーけど」
「山本さんは乙女心ってものを分かってません!」
「そりゃー俺乙女じゃねえもん」
「そんなの屁理屈です!」
「……こらこら二人とも」
 苦笑いしながら、美並が割って入った。
「そろそろ行きましょ。ハル、京子が呼んでたわよ」
「あ、はい!」
 駆け出すハルを見送ってから、美並は山本と並んで店を出る。
「なあネエさん」
「うん?」
「乙女心って、わっかんねーなー」
「…………」
 一瞬きょとんとした後、それでも美並はくすりと笑む。
「でも、ツナよりは分かってると思うわよ」
「んー、そっか?」
「ま、ハルの気持ちをくみ取ってあげられるくらいにはね」
「んー……」
 そんなもんか、と頭を掻いて、隣を歩きながら何だかにやにや自分を見ている美並に、少しだけやり返す。
「ネエさんは男心ってのがわかってねえみたいだけどな」
「え?」
 きょとん、となる美並を見て苦笑すると、
「さ、行こうぜ」
 遠くで、一人だけ制服のままのハルが振り返り、美並と山本に向かって大きく手を振っている。山本は悪戯っぽくハルを指さし、ニヤリと笑ってみせる。
「俺もさあ、何だかんだで、たまにはこっちから攻めてみてやろうかと思ってるワケよ」
 そう言って歩き出した山本の背を見つめ、美並は一人呟いた。
「ハルにとっては不意打ちね」
 もしかしたら今年は、自分たちにとって何か大きな変化のある年なのかもしれない。
 ちらりとそんなことを思って、美並は下駄を鳴らして駆け出した。
 夏の終わりは、すぐそこに迫っていた。


ハル可愛いよハル!そして山ハルいいよ山ハル!!という気持ちが降って沸いたので。
山本は手でっかそうだなーと思い、ハルをなでなでしてもらいました。
ハルちゃんそのままだとほだされちゃうから気をつけて!!(笑)
獄ハルも可愛いと思います。ノマカプもかわゆいですねリボーン!

[ 戻る ]

Copyright since 2005 Some Rights Reserved. All trademarks and some copyrights on this page are owned by Mizuki Rin.