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彩雲国物語 > Amor ti vieta -sideM-

 ……あー、もう!
 一体どれだけ待たせれば気が済むのよ、このばか!
 女の子からこれだけ誘ってるってのに、まだ気付かないっての?
 ねえ、絳攸さん、私のこと好きなんだよね? 惚れてるんだよね?
 あの楸瑛さんに「間違いない」って、そう太鼓判押してもらったくらいだもの、間違ってるはず、ない。
 今だって、私の顔を盗み見て、私を欲しいって思ってるくせに。
「んん……」
 酔ったふりっていうのも、案外疲れるもんなのよ。分かる?
 言っとくけど私ね、お酒、もんのすごく強いのよ。あんな一升瓶飲み干したくらいで、潰れるわけないじゃないの。劉輝兄も清苑兄様も私も、王族の者はみぃんな強いのよ。
 ……秀麗には、負けそうだったけど。
 つまり、そんな私が酔っぱらったフリしてるっていうの、ほんとに疲れるんだよ。
 まあ、そのたびに公然と抱きつけるから、それはそれでいいんだけど……。
 って違う違う! そうじゃなくて!
 ……って、もう、硬直しないでよ。
「ん……ふ……」
 こんな声とか出したら、足とか絡めてみたら、ねえ、いい加減気付いてくれる? 私、寝てなんかないよ?
 …………ちょっと、まだだんまりなわけ?
 そんな風にだんまり決め込まれると、すごく不安になるじゃない。
 もしかして、私、そんなに魅力ない……?
 霄のお爺ちゃん曰く「一目で一万人の男を殺せる脚線美」らしいんだけどな。
 ムネだってオシリだって、普通ぐらいにはなってると思うんだけどなあ。
 ……こんなんじゃまだ駄目なのかな。
 私が、子供だから? 絳攸さんから見れば、私はまだまだ子供ってことなのかな。私、もうすぐ19なのに。全然おかしくなんかないのに。
 ……それとも、やっぱり、私のこと嫌いなのかな。
 普段あれだけワガママ放題の姿をさらして、お兄ちゃんたち、特に清苑兄様の前だとあまりに態度が変わる私を見てれば、……嫌いになっちゃう、かな。
 もちろんお兄ちゃんたちは大好き。清苑兄様は、本当に好き。初恋の人だもん、今でも、本当に大好き。
 だけど、それでも触れて欲しい、抱いて欲しいって思うのは……。
 絳攸さん、私のこと、嫌いなのかな。楸瑛さんと私との、思い違い?
 時々見せた、私を気遣ってくれる手も、しょうがない人だなって言いながらも笑ってた目も、温かいって感じたのは、全部私の、思い違い?
 足をくじいて動けなかった私をおんぶしてくれたのも、泣いていた私のところへ一番に駆けつけてきてくれたのも、方向音痴のくせに町中私を捜してくれたのも。
 全部全部、私が「王族」だから、なのかな。
 そんな風に考えると、涙が出そうになった。
 ねえ、何で何もしてくれないの?
 私、「酔ってる」んだよ。この場限りってことにしても、いいんだよ。
 絳攸さん、起きてるんだよね?
 何とか言ってよ。
 私のこと、好きなんだよね?
 私が、どれだけの人に告白とかされてるか、絳攸さんだって知ってるよね? 言ってくる人の中には、絳攸さんよりも地位の高い人だっているんだよ? でも私、誰にも「はい」ってお返事してないんだよ? その私が、何が楽しくて酔っぱらいのフリまでして、狸寝入りしてるって思ってる?
 て言うか、ほんとに、私のこと好きなの?
 ここまでしてるのに、何もしてくれないってことは、もしかして本当に、私のこと嫌いなのかな?
 …………。
 ……もう、起きちゃおうかな。
 何か、もう、辛くなってきた。こうしてるのも、絳攸さんを好きなのも。
 何で私、絳攸さんなんかを好きになっちゃったんだろう。他の人にすれば良かった。例えば、一緒にいてすごく楽しい龍蓮とか、ちょっと絳攸さんに似ててマジメで奥手だけど、紳士的な珀明とか。
 ……ううん、ずっと、清苑兄様だけを想っていれば、楽だったのかも。
「……ははっ」
 唐突に、絳攸さんが笑った。
 驚いて思わず飛び起きそうになったけど、何とか我慢した。
 もしかして、私が起きてるって気付いてた?
 ……ううん、それはないかな。だって、超ニブで淡泊って言葉を絵に描いて動かしたようなのが絳攸さんだもん。
 考え事か、思い出し笑いか、それとも本格的に私を起こしにかかるか、ってところね。
 はいはい、分かってます。起きるわよ、起きればいいんでしょ。まったく、バカな時間の使い方しちゃったなぁ。
 何か、本気で泣きたくなってきた。
 誰のせいだと思ってるのよ、このバカ! 超ニブ!
 もう、知らない、絳攸さんなんか。やめる。もうやめる。こんなツライ気持ちになるなら、もうやめる。
 今度好きになるのは、もっと優しい人にする。もっともっと、私の気持ち、女の子の気持ち、よく分かってくれるような人にするよ。
 あ、そうか、それなら、龍………

「……好き、なんです、俺……、あなたのことが、たぶん、自分でも、驚くほどに……」
 ……心臓が、きゅってなった。
 でも、そんなこと、寝てる私に言ってどうするつもり?
 なんで、そんな諦めきった口調で、何もかも投げ捨ててしまうみたいな声で、そんなこと――。
 何て不器用な人だろう。この要領の悪さ、あなた本当に「朝廷一の才人」なの?
 寝てる相手に告白して、それで自分だけすっきりしようってつもり?
 あいにくだけど、そんなこと、もうとっくに――
「……知ってる……」
 の、よ、こ、の、バ、カ!
 本当に私のこと好きなら、固まってないで、実力行使にでも出てみたらどうなの?
「―― い、いいんですか……」
 知りませんよ、どうなったって。
 そんなこと、
 い、ま、さ、ら、聞、く、な!
 半分イライラしながら唇を噛んでいると、絳攸さんが向き直ってきた。
 お酒のせい?
 ―― バカ言わないで。
 お酒のせいにするにも、あなたは一滴も呑んでないじゃない。
 本当に、ばかな人。



なかなか手を出してこない絳攸に、ジリジリ焦れちゃうひめさまサイドでした。
絳攸がひめさまに気があるっていうのは感づいてるんだけど、手を出してこないしそぶりも見せないから、
ついに行動に出ちゃったひめさま。おそらく誰かさんに入れ知恵されたものと思われます。

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